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光射す午後に19
当然断るだろうと思っていた樹が頷いて、和臣の肩に手を掛けた。
月城は唖然として息を呑む。
「い、樹くん、」
「本当にいいの?僕なんかとキスしても」
樹がおっとりと尋ねると、和臣は何故か怒ったような顔で頷いた。
「そう……。じゃあ」
ゆっくりと樹が和臣に顔を寄せ、首を傾げながら唇を押し当てた。和臣の腕が伸びて樹をぐいっと抱き寄せる。
しっとりとした口付けは、和臣が唇を開き樹の舌を誘い入れて深くなる。
言葉もなく呆然と見守る月城の目の前で、初対面に近い2人の、挨拶とは思えぬ濃厚なキスは続いた。
樹の鼻から微かに艶めいた吐息が漏れる。
互いにしばらく舌を絡め合った後で、やがて和臣の方から口付けを解いた。
「どう?これで、満足した?」
樹の少し笑い含みの問いかけに、和臣は憮然としながら手を伸ばし、樹の濡れた唇を指先でぐいっと拭うと
「聞いてたとおり。あんたのキス、ヤバい」
「ヤバい……?」
樹が不思議そうに小首を傾げる。
和臣はまだ怒ったような顔で樹を睨みつけていたが、ため息をついて首を竦め
「自覚ないってのも聞いてたとおり」
「聞いてた…って、誰に?」
「もちろん。あんたのパトロンのおっさんだよ」
樹が微かに身動ぎする。
月城は慌てて2人の間に割って入った。
「君は、叔父さんの所にいたの?」
樹の問いに和臣はうーん…と首を捻り
「あいつのマンションに監禁されてたのは1ケ月ぐらい。その後、半年ぐらい別のマンションで飼われてた」
「……そう……」
樹は苦しそうに顔を歪め、胸に手を当てた。
「あんたもおんなじだろ?」
月城は眉をひそめた。
やはり樹に会わせるべきじゃなかった。
和臣の言葉には、遠慮も思いやりもない。
これでは樹の古傷を無意味に抉るだけだ。
「和臣くん、ちょっと、」
話に割って入ろうとするのを、樹が微笑みながら手で制した。
「おんなじ。……そうだね。僕もあの人がパトロンだった」
「最初は無理やりだろ?あいつ、子どもを抱くのが大好きな変態だ」
「君は何故、あの人に?何処で知り合ったの?」
和臣はぷいっとそっぽを向くと
「姉さんのマンション」
……やはりそうか。
月城は樹の様子を気遣いながら、和臣を見つめた。やはり接点は、薫の妻だ。だがあの人は何故、藤堂冴香に接触したのだろう。当時はまだ結婚していなかったから、飯島冴香だった。
「巧さんは、君のお姉さんとはいつ知り合ったんだろう」
月城はとうとう我慢しきれずに、横から口を挟んだ。樹を睨みつけていた和臣が、ハッとしてこちらを向く。
「月城さん。いいから僕に任せて」
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