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光射す午後に29

電話を切った樹は、しばらく無表情のままスマホを見つめていた。 痺れを切らして何か聞こうと身を乗り出す和臣を制して、月城が穏やかに問いかける。 「今の電話の相手は、もしかして」 「うん。彼だった。厄介だな。こっちに来ていたなんて」 月城は眉をひそめた。その男なら今はまた渡米していると聞いていた。 なるほど。今回の件に絡んでいたのは思ったより手強い相手だったのだ。 「行くのかい?」 「うん。行かないと。あいつらの目的は兄さんじゃない。でも僕が行かないと、兄さんは帰れない」 「正直……君を行かせたくないな。君が行けばどうなるかは目に見えている。ようやく……自由を手に入れたのに」 月城が忌々しげに吐き捨てると、樹は透き通るような笑顔を見せて 「大丈夫。今までだってやってこれた。月城さん、ごめんなさい。迷惑ばかりかけて」 月城は苦い思いを飲み込んで 「君が謝ることは何ひとつないよ。元はと言えば、巧さんのやることを止められなかった俺の不甲斐なさがいけない。だが、君はもうあの頃とは違う。俺だってだ。必ず、突破口を見つけるよ」 「ありがとう、月城さん。和臣くん?」 樹に呼ばれて、和臣は緊張した面持ちになる。 「申し訳ないけど、君にも協力してもらわなきゃいけなくなった」 「悪いけど最初からそのつもり。で?一緒に行けばいいんだよね?」 意気込む和臣に、樹は済まなそうに眉を下げ 「うん。でも、君に危害は加えさせない。絶対にね。だから約束して?勝手な行動は絶対にしないって」 和臣は顔をしかめ、ちぇっと舌打ちした。 「それ、さっきも約束したじゃん。どんだけ信用ないんだよ、俺」 その約束した舌の音も乾かぬうちに、勝手に車に乗り込んできたのは君だよ、と月城は心の中で突っ込んでいた。 「よし。じゃあ、急ごう。月城さん、和臣くんのこと、お願い」 「分かった」 樹は頷くと、月城の後ろに黙って控えている黒田に視線を向けて 「黒田さん。お義父さまに、まだ連絡は取れない?」 「すみません。何度かコンタクトはとっているんですが」 「そう。帰国するまでは無理かな……。もし連絡がとれたら、知らせてください。僕のスマホ、その時使える状態かどうか分からないけど」 苦笑する樹の言葉に、黒田は表情を曇らせ目を伏せた。

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