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愛しさの先にあるもの17

来た時と同じ大きな川を、今度は渡らずに手前の道を折れる。 しばらくは助手席の和臣に追跡してくる車がないか確認させながら、山の脇道をグルグルと走り回った。樹が黒田に連絡をとって、20分後に指定の場所で落ち合う。 車の中ではみな、終始無言だった。 盗聴を避ける為だ。 別の橋の脇で車を停め、全員静かに降りると、黒田が乗ってきたセダンに乗り換えた。 指示は全て、樹が連絡用アプリでしている。黒田は月城に黙って頷くと、荷物を全て受け取り、月城たちが乗っていた車に乗り込んだ。 黒田が走り去ると、月城はようやく緊張を解き、後部座席の樹と薫に視線を向けた。 樹は少し涙ぐみながら、そっと薫の手に自分の手を重ねて見守っている。 普段あまり感情を表に出さない樹の、愛おしさとせつなさが入り交じったような表情に、月城は胸を詰まらせた。 ……そんな顔……するのか……樹くん。 月城は目を逸らしながら樹に話しかけた。 「まずは病院に連れて行くよ」 樹は、ハッとしたように顔をこちらに向け 「うん。和臣くんも、病室に戻らないと」 「ああ。そうだね」 助手席に目を向けると、和臣は疲れたのか黙って目を閉じている。 月城は前を向いて、車を発進させた。 医師の診察を受けた後、和臣の入院している個室にベッドをもう1台入れてもらって、薫をそこに寝かせた。 薫は処方された鎮静剤の影響で、ぐっすり眠っている。樹はその脇に椅子を引っ張ってきて座り、無言で薫の寝顔を見守っていた。 和臣も診察を受けた。幸い、身体に若干のかすり傷がある程度で、内壁に裂傷などは負っていなかった。念の為、洗浄して血液検査をしてもらうことにした。 和臣は、診察と処置を終えて自分のベッドに戻ると、しばらく物言いたげに樹の方を見ていたが、やはり疲れていたのか、やがて目を瞑って寝息をたて始める。 和臣が眠ったのを確認してから、月城は電話をする為に病室を出た。 黒田に電話して確認すると、やはり車には外側にGPS装置、中には盗聴器が仕掛けられていた。そして、月城と樹の財布からも超小型の盗聴器が見つかった。 「……うん。じゃあ、財布は中身だけ抜いてそのまま車に乗せて、その車で誰か東京の事務所に戻ってくれ。……うん、そうだね。その辺りで乗り捨てて、電車に乗り換えるんだ。……ああ、わかった。じゃあ河東くんにお願いするよ。もし不審なことがあったら直接こちらに連絡を。……ああ。じゃあ、頼むよ。くれぐれも気をつけてと、河東くんに伝えてくれ」 月城は電話を切ると、今度は藤堂冴香の方に見張りをつけていた部下に電話をした。 彼女は、どうやら仕事には向かわずに、山形方面への電車に乗ったらしい。 山形には彼女と和臣の実家がある。 引き続き、彼女を遠巻きに見守るように伝えて電話を切ると、月城はほぉ…っとため息をついた。

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