381 / 448

愛しさの先にあるもの24

樹の声が震えている。 「今さら……にいさんに、何話したらいいのか……分からない」 樹はテーブルに両手を乗せて、祈るように握り合わせた。月城は努めて穏やかな声音で 「うん。君から何かを話す必要はないよ。ただ、薫さんは知りたがっている。だから、彼の質問に答えてあげたらいいと思うんだ」 樹はきゅっと眉を寄せた。手を握ったり開いたりしながら 「僕は、にいさんの聞きたがっていることが、怖い。にいさんに、何も、知られたくない……」 「答えたくないことは、無理に本当のことを言う必要はないよ。俺が一緒にいて、上手く話を合わせてあげるから」 樹はパッと顔をあげて、潤んだ瞳でこちらを見つめた。 「ごめんなさい。月城さんに、頼ってばかりで……僕……」 「謝らなくていい。俺は昔、君を救えなかった自分をずっと許せないでいるんだ。俺が今、君に協力しているのは、全部、自己満足なんだよ。罪の意識から逃れようとしているだけだ」 言葉にすると、余計に苦い思いが込み上げてくる。 そう。自分があの時もう少しだけ、彼に逆らう勇気を持てたなら……樹の運命は変わっていたかもしれないのだ。 「……月城さん……」 「君に、もうこれ以上苦しんで欲しくない。薫さんと話すのはね、君に辛い過去のことを思い出させたいからじゃないんだ。薫さんは、今のままで君が姿を消したら、きっといろいろと知ろうとして闇雲に動いてしまう。何も知らずに動けば、今日みたいなことがまた起きてしまうよね。君にとって薫さんは、アキレスの踵だ。彼が下手に動けば君を巻き込んで、彼自身も危ない目に遭ってしまうんだよ」 樹はくしゃっと顔を歪めて項垂れた。 「結局……また巻き込んじゃった。にいさんはあいつらにマークされてる。また、今日みたいな目に遭うかもしれない。僕は……にいさんにとって、疫病神でしかないんだ」 「樹くん。そういう言い方はダメだよ。君は何も悪くない」 「お義父さまに会って、にいさんのこと、きちんと相談しておきたいんだ。あいつらがまた何か仕掛けて来る前に」 「だからこそ、薫さんとまずは話そう。薫さんは、君の言うことじゃないと絶対に信じない。俺では彼を納得させられないからね」 月城の言葉に、樹は震えるようなため息を漏らした。 誰よりも会いたい人なのに、会って話をするのが怖い。樹のそのジレンマがやるせなくてせつない。 「病室に、戻ろう。君の姿が見えないと、きっと薫さんは不安になるよ」 樹は再び、重苦しいため息をつくと、のろのろと立ち上がった。

ともだちにシェアしよう!