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溢れて止まらない10
薫はどことなく拗ねたような顔をしているが、その眼差しは優しく温かい。
幸せか?と、問いかけてくれるのだ。
義父に優しくしてもらえているか?と。
それをまず一番に気にしてくれる薫の気持ちが嬉しくて、樹はまた泣きそうになった。
泣いたらダメだ。
薫に余計な心配をさせてしまう。
樹は頬に力を込めてぎこちなく微笑むと
「うん。幸せだよ、にいさん。お義父さまはすごくよくしてくださってるから」
「そうか。仕事は……面白いか?」
「うん、とっても。何処の国のどの地域にどんなニーズがあるのか、リサーチして需要と供給をマッチングさせるんだ。僕は世間知らずだったから、いろいろなことを知ることが出来て、すごく楽しい」
樹の言葉に薫は目を見張り、とても嬉しそうに微笑んでくれた。
「そうか。仕事にやり甲斐を感じているんだな」
「うん」
樹は自信を持って頷いた。これは偽りのない本心だから、胸を張って言える。
「にいさん、お腹、空かない?もうそろそろお昼だし、看護師さんにお願いして食事もらってくる」
「あ……ああ。そうだな。ちょっと腹が減ってきたかもしれない。おまえは……食べるのか?」
「うん。僕もお腹空いてきちゃったから、売店で何か買ってくる。一緒に……食べよう?にいさん」
「ああ……そうしよう」
薫が穏やかに微笑んだ。
「じゃあ、俺が薫さんの食事を頼んでくるから、樹くんは売店に行っておいで」
樹は月城に頷くと、椅子から立ち上がった。
ベッドにセットされたテーブルには、月城が配膳室からもらってきてくれた食事のトレーが置かれている。樹はその横に、売店で買ってきたプリンやヨーグルトを並べた。
「にいさんの分。多分、病院の食事だけじゃ足りないから」
「おまえは何を買ってきたんだ?」
「おにぎりとサラダ」
樹は言いながら、袋から自分の食事を出してテーブルに並べた。
月城は気を利かせてくれたのか、和臣の方へ行ってしまった。
久しぶりに兄と2人だけの食事だ。
「ここは……個室じゃないよな。向こうにも誰かいるのか?」
「本当は個室なんだけど……先に和臣くんが入院してて、そこにもうひとつベッドを入れてもらった」
「和臣……?」
薫が箸をとめて、怪訝な表情になる。
「うん。にいさんの義理の弟。奥さんの……弟」
薫は唖然とした。
「え?あの和臣くんか。ここに入院していたのか?」
「ちょっと体調崩して。彼も僕の仕事の手伝いを、してくれることになってる」
薫はカーテンの方を見つめて
「驚いたな……。あの子とおまえが知り合いだったなんて」
樹はおにぎりの包みをあげて、パクっとかぶりつくと
「こっちでバイトの募集をしてたら、偶然応募してくれた」
「そうか……和臣くん、やっぱり仙台に来ていたのか」
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