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溢れて止まらない12
「そう。それならよかった。にいさん、僕ね、今の仕事しながら、あるボランティア活動もしてる。まだ資金も貯まってないし、活動って言っても情報収集の段階だけど……いずれは本格的にそっちに力を入れたいって思ってるんだ。それで……その時がきたら、にいさんに、仕事を頼みたい」
「俺に?」
「うん。まだ全然、夢の段階だから。いつか詳しい話、出来たらいいなって」
薫は、髪を撫でる手に力を込めて、すごく嬉しそうな笑顔になると
「そうか。楽しみにしてるよ。おまえの依頼に十分応えられるように、俺も仕事を頑張らないとな」
「うん」
薫が嬉しそうに笑ってくれて、樹はホッとした。
そう。まだまだずっと先になるけれど、今の自分には夢があるのだ。その夢は、薫が将来の夢を実現させてくれないと始まらない。
「美味しかった?」
「うん。病院食のわりにはかなり美味い」
「そう。よかった」
薫はだいぶ顔色もよくなってきていた。この分なら、薬の後遺症の心配は要らないかもしれない。
「にいさん。仕事、今日は休んでも大丈夫だったの?」
薫の見守りをお願いしていた黒田からは、薫は今日から有給をとって、山形に向かうらしいと一応報告を受けていたが、念の為にさり気なく聞いてみる。
「ああ……。そうだな。今日から5日間は有給を貰っているんだ。ただ……昨日の打ち合わせの報告を、事務所に連絡しないとな」
「あ……じゃあ、にいさんのバッグ、早く必要だよね。僕、ちょっと電話してくるから、にいさんはまた横になってて」
「悪いな。ありがとう」
病室を出て、待合室に向かうと、月城が後ろから追いかけてきた。
「樹くん、何処へ?」
「電話。黒田さんに。にいさんのバッグ、まだ調べ終わってないか聞こうと思って」
「それなら、俺の方から連絡しておいたよ。もうすぐ黒田くんが届けに来てくれるはずだ」
樹は目を丸くした。
「わ。月城さん、仕事、早い……」
月城はふふっと笑って
「君が気にしていた件も、朝霧さんに電話で伝えておいたよ。お義父さんは予め、そういう事態もありうると予想していたらしい。向こうでの仕事が長引いて、今朝ようやく日本に戻ったそうだ。なんとか間に合ってよかったと、ほっとされていた」
「そう。じゃあ今、東京に?」
「いや。講演会の予定があるから、金沢の方に出発されたそうだ」
「あ……だったら、今お電話したら、まずいのかな」
「明日の講演会が終わったら、こちらに足を伸ばしてくださるそうだよ」
月城の言葉に、樹は目を見開いた。
「え……わざわざこっちに寄ってくださるの?お忙しいのに…」
月城はにっこり微笑んで
「大丈夫だよ。君に久しぶりに会いたいそうだ。それとね、出来たら……薫さんにも会っておきたいと仰っていた」
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