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溢れて止まらない13
「にいさんに?……でも、それは……」
樹は表情を曇らせた。
「大丈夫だよ、樹くん。朝霧さんは君の事情を誰よりも理解しているから。薫さんに余計なことは絶対に言わないはずだ」
たしかに月城の言う通り、養父は軽率なお喋りはしない人だ。だが、薫に直接会わせるのは少し躊躇ってしまう。
養父の朝霧は、自分のことを本当に大切にしてくれている。血の繋がりもない自分に、あそこまで心を砕いてくれるなんて、破格のことだと思う。
ただ、朝霧は薫のことを、あまり良くは思っていないようなのだ。薫についていろいろ質問された時も、日本に帰国する前にも、結構辛辣に釘を刺されている。
……会わせても……大丈夫……なのかな……。
樹が出て行った後、少し横になって目を閉じていたが、さんざん眠ったせいもあるし、一気に聞かされた大量の情報に気持ちが混乱して、眠りは訪れなかった。
本当に、驚くことばかりだ。
自分はいったい、何を見て生きてきたのだろう。
それにしても、樹は以前にも増して美しくなった。あどけなかった頃の面影は大きな目に残ってはいるが、背が伸びて身体付きもだいぶしっかりした。顔つきも大人っぽくなった。少し痩せすぎなのが気にはなるが。
……起業か……あの樹が……。
自分の中で、樹は7年前で時が止まったままだ。だが、再会した弟はすっかり大人びて話し方もしっかりしている。何よりも、仕事をしていてその先の未来に夢があると言う。その成長が嬉しくないはずがない。
「なあ、起きてる?」
不意に声がして、薫はハッと目を開けた。
聞き慣れない声の主がベッドに近づいてくる。思わず身構えた。
「ごめん。起こしちゃった?」
薫は相手の顔をじっと見つめた。
「分かる?俺のこと。和臣だけど」
薫は目を見張った。
そうだ。この部屋に入院していると、さっき月城に聞いていた。
だが、目の前の垢抜けた美少年と、学生服を着ていた大人しそうな少年の記憶がなかなか重ならない。
「……和臣……くんか」
「そ。俺のこと、樹さんから何か聞いてる?」
「ああ。体調を崩して入院していると。樹の会社のアルバイトをするそうだね」
薫の言葉に、和臣は少し不思議そうな顔をしてから、ああ…と頷いて
「うん。まあ、そんな感じ。あんた、具合、どう?」
「もう、大丈夫だ。君の方こそ、どうなんだ?」
何度か顔を合わせてはいるが、無口だった義理の弟とまともに会話をした記憶はない。どうしてもぎこちなくなる。
「俺はもうほとんど治ってる。2人がうるさいから大人しく言うこと聞いてるだけ。それよりさ、あんた。拉致された時のこと、覚えてんの?」
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