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溢れて止まらない14
「いや……。月城くんにも聞かれたんだが……薬を打たれて朦朧としていたから、ほとんど覚えていないんだ」
和臣は椅子にドサッと腰をおろすと、こちらをじっと見つめて
「ふーん。じゃ、あいつらに樹さんが何されてたか、全然覚えてないのかよ」
不満そうな和臣の言葉に、薫は眉をひそめた。
「樹が……?……樹はあいつらに何かされたのか?」
和臣はムスッとした顔になり
「あそこからどうやって脱出したのか、聞いた?」
「いや。まだその話は」
和臣は呆れたように鼻を鳴らし
「あんたって、相変わらずだよね。樹さんがどんな思いしてるか、全然分かってないんだな」
薫は肘をついて上半身を起こし、和臣の方に身を乗り出した。
「それは、どういう意味だ?」
和臣は唇を尖らせ、首を竦めた。
「どうせ樹さんは、あんたのことを優先して、肝心なことは何にも言わないんだろ」
「和臣くん、何の話だ?どういう……」
「和臣くん」
カーテンが開いて、樹が焦ったように中に入ってくる。
「勝手に動かないって、」
「はいはい。分かってるって。まだ何にもしてないよ?俺は」
和臣は両手をあげてヒラヒラさせながら、椅子から立ち上がると
「過保護にすんの、やめた方がいいよ。言いたくない気持ちは分かるけどさ。言えないってことは、本気で信じてないんだろ?何でもかんでもそうやって隠すってのは、相手の人格、認めてないってことだもんな」
「……君に、何が分かる」
「分からないさ。俺は樹さんじゃないからな。でも、その愛し方は歪だ」
「和臣くん。それ以上、余計なこと言うと」
和臣は樹を無言で睨みつけ、隣の月城を押しのけるようにしてカーテンの向こうに消えた。
後を追って出て行く月城について行こうとする樹を、薫は慌てて引き留めた。
「樹」
樹はなかなかこっちを見ない。重ねて呼びかけようとすると、ようやく振り返りこちらに歩み寄ってきた。
「どういう意味なんだ?あの子は何を言おうとしていた?俺が正気をなくしていた時、おまえはあいつらに何かされたのか?」
樹は表情を曇らせると、何か言おうと口を開きかけ、言えずに言葉を探している。
「樹。何かあったのならにいさんにも教えてくれ。俺はおまえのことを、何も知らなすぎる」
樹は唇をぎゅっと噛むと、小声で話し始めた。
「未遂、だったから。あいつら、言うことを聞かせようと、にいさんを盾にして僕に……乱暴しようとしてて」
息を飲む薫から、樹は目を逸らし
「僕の弱みを握るために、暴行している所を写真や動画に撮ろうとしてたんだ。でも危うい所で、朝霧のお義父さまが手を回してくれて。だから、未遂だった。にいさんは気にしないで大丈夫、だから」
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