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月の光・星の光6
「何故、待てなかったんだ。私の到着を」
「……ごめんなさい」
「樹。謝れと言ってるわけじゃない。理由を聞いているだけだよ」
朝霧の口調が少し柔らかくなる。樹が恐る恐る顔をあげると、朝霧は苦笑を浮かべていた。
「何とかしないと……って。僕が早く何とかしないと、にいさんが……」
朝霧は小さくため息をついて、樹の頭に手を置きぽんぽんっと軽く叩いた。
「君が焦る気持ちは分からなくもないがね。前に教えたはずだよ。焦っている時ほど、慎重に用意周到にと。君のやっていることは単なる無謀だ。事前の根回しも準備も充分じゃないのに、交渉事が上手くいくはずがない」
ズバリと釘を刺されて、樹は項垂れた。
分かっている。朝霧の言う通りだ。
それでも……動かずにはいられなかったのだ。どうしても。
「君は……依存し過ぎなんだ。薫くんに対する気持ちが、複雑に拗れすぎている。もちろん、君をそんな風にさせたのは君の周りにいた、下衆で悪質な大人たちだが……君はもうそろそろ、そこから抜け出さないといけないんだよ」
……依存……。拗れすぎている……?でも……
朝霧だけでなく月城にも、同じようなことを何度も言われてきている。
でも、樹は納得出来ずにいた。
兄に対するこの気持ちが、ずっと心の支えだったのだ。誰にどう言われようと、この想いはそう簡単に捨てられない。
好きだからこそ幸せになって欲しい。
その為になら自分は何をするのも厭わない。
薫に対してそう思うことは、間違っているのだろうか。
いや。例え間違っているのだとしても、同じシチュエーションになれば、自分はまたきっと同じことをするだろう。
押し黙ってしまった樹に、朝霧は首を竦めて
「頑固だな。まあいい。君の気持ちを変えられるのは、私ではないからな」
「どうして……僕がここにいると分かったんですか?」
樹の問いに朝霧は微笑んで
「私が月城くんに指示しておいたのだ。君の位置情報を確認出来るようにして欲しいとね」
朝霧の言葉に、樹はきゅっと眉を寄せ、運転席の月城を睨みつけた。月城はミラー越しにちらっとこちらを見て、目が合うと慌てて逸らした。
「月城くんを恨むのはなしだよ。そうしてくれとお願いしたのは私なんだからね」
「どこに、」
「それは教えない。また同じことがあるかもしれないからな」
楽しそうに微笑む朝霧に、樹はムッとして
「その言い方だと、どこに仕込んだか分かります。僕はいつも同じ服を着ているわけじゃないから、服や下着や靴は除外出来る。装飾品も身につけていない。僕が必ず持ち歩くもの。……スマホでしょう?」
「うん。ご名答。その通りだよ」
朝霧は満足そうに頷いた。
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