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月の光・星の光39

「うん。一時は危なかったんだ。手術を担当した医師にも厳しいだろうと言われたよ。僕も無理だと思った」 和臣は細く尾を引く吐息を漏らし、顔を顰めて、目の前のかつて自分を支配していた男を睨みおろした。 何故助かったのだろう。こんな姿になっても、何故、生きているのだろう、こいつは。己の欲望のままに、人の人生を狂わせた男だ。ここにいる3人とも、かつてはこの男に飼われていたのだ。 「しぶといよね……。これで生きてるなんて、意味わかんねぇ」 会えばまた、あの蛇のような目で見下され、威圧的な声で嬲られるかと思っていた。 でもこいつはただ、生きているだけだ。もう自分の意思では何も出来ない。 「ずっと、このまま?少しは回復したりすんの?」 何も返事をしない月城を、和臣は振り返って見た。月城は穏やかな微笑みを浮かべたままだ。 「いや。この状態以上によくなることは、もうないだろうね。むしろ、悪くなっている。老化のスピードが早いんだ」 穏やかではあるが、感情のない、淡々とした声だった。 「あんたが……こいつの面倒見てるの?月城さん。なんで?こんな奴、放っておけばよかったじゃん」 樹が何か言おうと1歩前に踏み出した。月城はそれを目配せでやんわり制して 「うん。でも僕は、この人のパートナーだからね。養子なんだ。戸籍上は義理の息子になってる」 「…っ」 和臣は息をのんで、月城に身体ごと向き直った。 「養子?……パートナーって…それ、」 「日本では、同性結婚は法律上はまだ認められていないからね。一応、義理の親子ってことになってるよ」 「結婚……?なに、言ってんだよ。だって、こいつは、」 上擦った声を出す和臣に、月城は哀しく微笑んだ。 「和臣くん。君にはきちんと話しておいた方がいいかな。僕の、昔のことを」 月城は腕時計で時間を確かめて 「そろそろ回診の時間だ。僕は巧さんを連れて部屋に戻るから、樹くん、和臣くんをカフェテラスの方に」 樹は黙って頷いた。 呆然と見つめている和臣に、月城は軽く頭を下げると、車椅子を押してゆっくりと部屋に向かう。 「結婚……?養子……?意味が、わかんねぇ……なんで」 「行こう。和臣くん」 樹は和臣に歩み寄ると、そっと腕に触れて促した。 月城がカフェテラスと呼んだ場所は、この不思議な造りの建物のちょうど真ん中にあった。周りの全てのエリアと繋がっている共有スペースらしい。 中庭のようになっているが屋根はある。奥に厨房があって、食事のメニューが並んでいた。

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