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月の光・星の光41
「美談じゃないなら、なんなんだよ。今さらあいつが昔はいい人だった、とか、聞かされたくないんだけど」
月城の微笑みすら浮かべたような穏やかな表情と、話す内容の不穏さのギャップが、妙に不安を煽って落ち着かない。
先を知りたい気持ちと、これ以上触れてはいけないと怯える気持ちが、心をざわつかせる。
だからつい、憎まれ口が出てしまった。
月城はちらっと樹の方を見てから、睨む自分に真っ直ぐ視線を向けてきて
「あの人は、いい人なんかじゃないよ。今も、昔もね。ただ……僕にとって彼は、とても複雑な存在なんだ。君にわかってもらうのは、難しいかもしれないけどね」
自分を見つめる月城の瞳が、哀しげに揺らめいている。
もしかすると月城は、過去の話を本当はしたくないのかもしれない。
自分よりずっと大人で分別のある男。
でもその心のうちに秘めたものは、思ったより繊細で脆いのかもしれない。
「……わかった。黙って聞くから続けてよ。だいたいあんたってさ、俺に理解してもらいたいとは思ってねえだろ?俺だけじゃない。他の誰にもさ」
月城は一瞬、虚を突かれたような顔になり、ふふ…っと苦笑すると
「君は……意外と鋭いんだよね。時々ドキッとさせられる。じゃあ、話を続けるよ」
不意に、樹が立ち上がる。
「月城さん、何、飲む?僕、買ってくる」
「ああ……ありがとう。じゃあ、アイスコーヒーを」
樹はこくんと頷くと、奥のカウンターの方に行ってしまった。
「なあ、この話、樹さんは全部知ってんの?」
「うん。彼には全て、話してる」
「じゃ、俺も覚悟決めて聞く」
月城は頷くと、また静かに話し始めた。
「巧さんが施設のクリスマス会に顔を出した時、僕はそこに預けられてまだ3日目だった。母親の育児放棄と、当時一緒に暮らしていた男から日常的な暴力を受けていて、怪我をして身体が弱っていた。だからみんなと一緒に会には参加出来ずに、部屋のベッドで1人で寝ていたんだ」
「……ひでえ親。まともに育てらんねえんなら、子どもなんか作んなきゃいいのにさ」
吐き捨てるように呟くと、月城は小さくため息をつき
「そうだね。彼女は……子どもみたいな人だった。僕は4歳ぐらいから、その施設に入所と退所を繰り返していてね。入所してしばらくすると、彼女がしおらしい顔で迎えに来る。でも一緒に戻ってしばらくすると、また怪我をしたり脱水症状を起こしたりして、病院に入院する羽目になる。そんなことを何回も繰り返していたんだ」
和臣は胸糞悪くなってきて、顔を歪めた。
そういう親は、夜の世界でなくてもいる。
彼らは子育てが出来るほど、まだ自分自身が大人になりきれていないのだ。
内面は自己愛の強い子どものままで、身体だけ大人になって子を産む。そして、こんなはずじゃなかったと、理不尽な怒りを何の抵抗も出来ない幼い子どもに向けるのだ。
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