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月の舟・星の海8※
ボディソープを泡立てながら、薫はどうしたものかと思案していた。樹は自分の言葉を素直に信じて、綺麗にして欲しいと言っているだけだ。
わかっている。
自分は義兄で樹は義弟だ。
変に意識してどぎまぎしてしまっている自分がおかしいのだ。
わかっては……いるのだが。
昼間、ごく健全なデートをしていたせいで、すっかり忘れたつもりでいたが、自分は昨日、樹に、兄としてしてはいけない行為をしたのだ。その時の記憶が鮮やかによみがえってきた。
可愛くて美しい義弟。時折、どきっとするような蠱惑的な姿を見せて、自分を翻弄する。
ダメだ、いけない。そう思いながら、月城に対抗するように、樹の幼い性に自分の邪な欲望を押し付けてしまっている。
自分は誓ったはずだ。
樹がもっと大人になって、自らの意思と判断を持てるようになるまで、もう二度とあんなことはしないと。
側に置いて、義弟の健やかな成長を見守ってやりたいと。
自分の樹に対する思いは……封印したはずなのだ。
だが……。
一緒に時を過ごせば過ごすだけ、樹への愛おしさは増していく。やはり自分のこの気持ちは、単なる歳の離れた可愛い弟に対する情だけではない。
父と義母にから引き取って一緒に暮らして、こんなにも近くにいる樹に対して、自制しきれるのか……正直自信がない。
(……いやいや。何を考えてるんだ。俺は馬鹿か)
薫は、早くもぐらつき始めている自分の気持ちを、慌てて打ち消した。
(……落ち着け。余計なことは考えるな。余計なことは思い出すな)
「にい、さん……?」
樹が不安そうに自分を呼ぶ。背を向けたまま、いつまでも石鹸を泡立てている自分を不審に思っているのだろう。
薫は瞬時に気持ちを切り替え、微笑みながら振り返った。
「ああ。待たせてごめんな」
振り返った瞬間、樹の白い肢体が目に入って、薫は慌てて目線を樹の顔に向けた。
「よーし。洗うぞ」
樹の顔を見たまま屈んで、腕を下に伸ばす。見当が外れて、まず手に触れたのは、その場所よりも少し下の……太腿だった。
ぴくんと樹が震える。もう少し上かと、腕をあげようとしたら、樹に手首を掴まれた。
「っ」
「兄さん、そこも。そこも、触られた」
言いながら、樹が自分の太腿に薫の手を押し付ける。
その滑らかな肌の感触に、薫はどきっとして、うっかり視線を下に向けてしまった。
「っ」
触りやすいように、だろう。樹は両脚を少し開き、腰を突き出すようにしていた。
生え揃ったばかりの柔らかそうな下生えに包まれた樹のものが、ばっちり目に入ってしまった。
さっき必死に封じ込めたはずの昨夜の記憶が、また鮮やかによみがえってくる。
樹の全身から立ち上る甘やかな香りの記憶と共に。
くら……っと一瞬、目眩がした気がした。あの甘い香り。以前見た夢の記憶までよみがえってくる。
「兄さん、しゃがんだ方が、洗いやすい?」
無邪気な樹の声が、遠くから聞こえる。薫ははっとして樹の目を見つめた。
「あ……ああ」
「服……濡れちゃってる。兄さんも脱げば?」
樹はそう言って手を伸ばしてきた。シャワーの湯がかかってしまった薫の肩に、細い指で触れてくる。
「樹……っ」
薫はその手首を掴んでぐいっと引き寄せた。驚く樹のまあるい目に吸い寄せられるように顔を寄せ、小さな唇を奪う。
「……っ」
ダメだと命じる自分の心と、やっていることがばらばらだ。
自分はこんなにも自制の効かない男なのか。
そう自身を嘲る気持ちと、甘い蜜を貪る歓喜が、同じ強さでせめぎ合う。
「ん……っふぅ……ぅ」
樹は一瞬身体を強ばらせただけで、すぐに力を抜き、こちらに身を委ねてきた。その従順さが素直さが、愛しくて苦しい。
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