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月の舟・星の海7
強めに擦るとは言ったが、真っ赤な皮膚が痛々しくて、どうしても手加減してしまう。
樹はぷるぷるしながら、くすぐったいのを必死に堪えていたが、とうとう堪えきれずにくすくす笑い出した。
「こら、じっとしてろ。首を竦めてたら洗えないぞ」
「だって、兄さん、それ、無理」
くすぐりという原始的な方法だが、樹がようやく楽しそうに笑っているのが嬉しくて、薫の気持ちも弾んできた。
「よーし。首はこれでいいかな。後は……腕か?」
指が離れてほっとしたように、樹がはにかんで頷いた。
薫はもう1度石鹸を泡立てると、首よりは少し強めに腕を指で撫でていく。樹は今度はじっと大人しく薫のやることを見守っていた。
「樹。今度また、一緒にボウリングに行こうな」
その言葉に、樹の身体が少し強ばる。薫はそれには気づかないふりをして、
「駅前にもっと大きなボウリング場があるんだ。せっかくピンを倒せるようになったんだし、コツを忘れないうちにまた行こう」
「……うん」
あんな事が起きなければ、初めてのボウリングは樹にとって楽しい体験になるはずだったのだ。あんな下衆な男たちに踏みにじられて、トラウマになってしまうなんて悔しかった。
もう1度連れて行って、嫌な記憶を楽しい思い出で塗り替えてやりたい。
「よーし。次はどこだ?」
少し俯いてしまった樹に、明るく問いかける。樹はおずおずと顔をあげ、口を開きかけて……何故かもじもじした。
「どうした? 遠慮しなくていいぞ?」
樹はそれでも口を開けたり閉じたりして何かもごもご言っていたが、薫が顔を覗き込むと、ぱちぱちと瞬きして
「さ、触られた、とこ、全部、綺麗に……してくれるの?」
「ああ、もちろんだ」
樹は首を傾げ、微妙に目を逸らして眉を顰める。
「なんなら全身……」
「兄さん。あのね」
薫の言葉を遮って、樹が手を伸ばしてきた。泡だらけの薫の手を掴んで、ぐいっと下の方に引っ張り
「……ここ、も」
言いながら持っていかれた自分の手が触れたのは……
「っ」
ふにゃり……と柔らかい感触だった。薫は息を飲み、思わず手を引っ込めかける。
それは、樹の男の子のシンボルだ。……触るのは初めてではないが。
「ここも、か?」
樹が俯いてこくんと頷く。
(……あいつら……ここも触ったのか!)
なるほど、それで樹が男の子だと気づいて泡を食ったわけだ。
あいつらに男の子を悪戯する意思はなかったとしても、見ず知らずの暴漢に押さえつけられて、よりにもよってここを触られたのならば、樹が激しくショックを受けたのも無理はない。
冷静にそんなことを考える一方で、薫はちょっと焦っていた。
遠慮はするなとは言ったが……そんなデリケートな場所を素手で……?
薫が固まってしまったのに気づいたのか、樹はまたおずおずと顔をあげ、上目遣いにこちらを見つめてくる。その瞳がまた不安に揺らめいているのに気づいて、薫は慌てて表情を和らげた。
「わかった。もちろん洗ってやるぞ。兄さんが触っても平気だな?」
樹はぱちぱちと瞬きをすると、ほっとしたように頷く。
薫は内心の動揺を押し殺し、もう1度ボディソープを手に出して泡立てた。
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