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第1話

「ゔーーーーーーーーーーん…」 現在地、自宅。俺は今、非常に困っていた。 「さっきからうるせえ」 「優斗は文句ねえのかよ!?」 目の前に居るのは弟の優斗。よっぽど不愉快だったのか、眼鏡の向こうでは鋭い目がギラついている。 「べっつにー。ゲーム出来ればスペースなんてどうでも良くね」 「このクソゲーマー…誰のせいで俺がこんなに…」 そう、スペースだ。俺はスペースの問題で今頭を抱えている。冒頭の文をもっと厳密に言えば現在地は自室。更に言えばベッドの上。好きでここに居る訳ではない。追いやられているのだ。散乱したゲームやら漫画やら服やらあれとかそれとかこれとかその他諸々とにかく! こいつの!! 優斗の私物に!!! 俺が溜息を吐いたり唸ったりするのを横目に今日も優斗は悠々とゲームをしてやがる。 「まあそのうち片しとくわ」 「お前そう言って何ヶ月経ったと思ってんの?」 いい加減我慢の限界だ。やはりずっと考えていたあの手を使うしかないか…。 「…優斗」 「……あ?」 「裕斗と三人で話し合おう」 俺達兄弟にはもう一人、上に兄が居る。俺達は三兄弟。上から順に、裕斗、悠斗、優斗。面白い事に全員「ゆうと」と読めてしまうなんとも凝った名前だが、実際の読み方は長男がゆうとで次男の俺がひろと。 「はぁ?兄貴と?」 そして目の前でゲーム三昧の三男がまさと、だ。…ではその裕斗が一体どこに居るのかというと。 今俺の部屋は二人部屋。この通り優斗と共同で使っている。しかし二人部屋と言っても特別広い訳ではなく、お互いのベッドやら何やらを置いたら身動きが取れるスペースは少ない。まして散らかしたのなら尚更だ。 そして長男である裕斗。既に成人しているが絶賛求職中。故に実家を出ているとかそういう訳ではない。つまりはこの家で一緒に住んでいるのだ。 ──だが部屋が違う。裕斗だけ。この家に越して来た際、一番上だからと自分は贅沢に一人部屋だ。おかげで二人部屋を押し付けられた俺達が、…いや、俺が、俺だけが、大変迷惑している。裕斗は悪くないかもしれない。もう少ししつこく注意して優斗が片付ければ済む話かもしれない。いっそ俺が全て片付けてしまおうか。それでも俺は日々募った不満を早急にぶつけなければ気が済まなかった。 「三人で話し合って、部屋を決め直そう」 「今更何言ってんだよ、もう何年経ったと思ってんだ」 「だからこそだよ!もういいだろ!?俺は十分我慢しました!」 「へいへい、言ってろ言ってろ」 名案だと思ったがピンと来ない、というか半ば呆れているらしい優斗は全く聞く耳を持ってくれない。ならば。 「もし話し合って一人部屋になったらぁ〜、も〜っとデカいゲームも置けるしなぁ〜?いくらごろごろしたってスペース有り余ってるしなぁ〜?」 「……」 優斗の眉が動いたのを俺は見逃さなかった。このクソゲーマーにはゲームという単語を出しておけばちょろい。伊達に兄貴やってねえぜ。仮に話し合うとしても一人部屋は渡さねえけどな!! 「…しょうがねえ、付き合ってやるよ。その代わり短時間で済ませろよ」 「よーしよし、いい子だなあ優斗」 態とらしい笑顔を貼り付け優斗の頭を撫でると、うるせえと不貞腐れた顔をした。 . . 「ゆーうーとーちゃーん!あーそーぼー!」 優斗を引き連れ、俺は内心煮えたぎった闘争心を抑えつつ間抜けな声を上げて裕斗の部屋のドアを叩く。するとガチャ、とドアノブが動いた。 「…何、うるさいよ」 長身に眼鏡、落ち着いていて真面目そうな見た目──に、騙される女も数多存在する。しかし惑わされてはいけない。中身が駄目なのだ。外に出ればお洒落なカフェで本でも読んでいそうな錯覚に陥るが家では身体に悪い不規則生活。まず滅多に外に出ない。家でネットサーフィンがほとんどだ。所謂引きこもりの部類に入るのか。一応求職してはいるが。 「…何って聞いてるんだけど」 (大体この兄弟は全員何かが駄目なんだ…優斗も顔はいいのに家ではゲームゲームゲーム…俺も生活力がねえ…) 「………用が無いならさようなら」 「あーーーッ!ちょっと待て!ちょっと部屋入れて!」 「なんで」 「三兄弟で家族会議をしましょう」 「…さよなら」 「おーーーーい!!!」 不機嫌極まりない表情を浮かべる裕斗がドアを閉める直前のところでギリギリ、優斗が声を上げる。 「まあまあ、オレも仕方無く来てやったんだから兄貴も付き合えよ」 「……揃いも揃ってなんの話だよ」 「まずそれはこの後じっくり話そうぜ、お邪魔しまーす」 「ちょっ…おい、優斗!」 「ナイス優斗〜!失礼しま〜す!」 「はぁ……」 強引ではあるが何とか部屋に入るところまで来た。第一関門クリアだ。なんせ裕斗はほとんど人を部屋に入れない。一人の方が落ち着くかららしいが。一先ず追い出される前にと適当な場所へ座り込む。 …さーて、会議会議!

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