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第2話
「題して!三兄弟の部屋割りについて!!」
議題を叫びながら勢い良く立ち上がると、優斗が面倒くさそうに適当に手を叩いた。一方裕斗は頬杖をつきながら溜息を吐いている。
「部屋割りって、俺は一人部屋から動くつもり無いんだけど」
「元はと言えば裕斗が俺らに二人部屋を押し付けたのが悪いんだから、今日は話し合いに協力してもらうぞ」
「今までなんの文句も言ってなかったでしょ。今更どうすんの」
「だーかーら、話し合うって言ってんだよ!」
一向に進む気配が無い。裕斗は意地でも動かないつもりらしい。
「まあ、悠斗がそんなに部屋を変えたいって言うなら理由くらいはちゃんと聞いてあげるよ。そこまで言うならよっぽどなんでしょ」
「ふ…やっとこの積もりに積もった不満を爆発させる時が来たか…いいぜ…全部ブチまけてやるよ…」
自分が受け身になるという裕斗の兄らしい一面がようやく垣間見えたところで俺はここぞとばかりにスピーチ(?)を始める。
「そもそも部屋決めの段階で裕斗が有無を言わせず一人部屋を選んだところから俺はとっくに不満だったんだ。そこからまあ何年かやってきたがなあ、裕斗、お前俺達の部屋を見た事があるか?散々散らかった優斗の私物で俺のスペースなんてあったもんじゃねえ…オマケに休日はゲームの音がうるせえ…。なぜ俺だけここまで理不尽な思いをしなけりゃなんねえんだよ!?」
まだまだ不満を感じた事は多々あったが、ヒートアップして余計な事まで口走りそうだったので敢えて言うのを止めた。すると静かに耳を傾けていた裕斗が口を開く。
「…そう、悠斗の言い分は分かったよ」
「……そうかよ」
「自分の部屋で落ち着けないっていうのは確かにストレスかもしれないな。…かと言って、そう簡単に部屋を変えるっていうのも…」
眉を寄せ複雑そうに顔を歪める裕斗。どうやら本気で考えてくれているらしい。まともな所もあるんだな…。するとそんな俺達を見ていた優斗が今度は口を開いた。
「んじゃ、勝負すっか」
「…勝負?」
その言葉に俺と裕斗が顔を見合わせるが、優斗はそんな事はお構い無しに話を続ける。
「そ。それなら平等だし簡単に決められんだろ」
「勝負って、じゃんけんとかか?」
「ふは、それじゃあつまんねえじゃん」
「じゃあ何を…」
その瞬間、優斗は不思議そうに首を傾げる裕斗の目の前へ。椅子に座っている裕斗と同じ目線になるよう軽く腰を曲げると、何やら意味深に口角を上げた。
「もっとイイコト」
.
.
「…優斗お前本気で…」
「何怖気付いてんだよ。勝負っつってんだろ」
「これならじゃんけんの方が早いだろうが…!?」
俺と裕斗が慌てるのも当然だ。優斗が考えた勝負というのはとんでもないものだった。
『タイマー使って、三人で時間を争う。誰が一番早漏か、ってな』
早かった奴が負け、というルールらしい。これが一番年下の考える事か…。18の俺でも思い付かねえ。高校二年生って怖えよ。
「じゃんけんだとどうせ後出しがーとかうっせえだろ。棄権すんなら俺が部屋決めていい?」
「…やるしかねえのか」
「…はぁ…」
アホなのかしっかりしているのか分からない。しかし優斗の言う事は最もだ…この勝負なら文句の言いようが無い。
「一人に対して二人で、痛え事以外なら特に禁止事項は無し。ってルールでいいよな」
こうなったら腹を括るか。所詮男同士だ。別に減るもんでも無い。無いよな。そう自分に言い聞かせながら裕斗に視線をやると分かりやすく肩を竦めていた。仕方無い、といったところか。
「じゃあここは上からっつー事で兄貴からタイム測ろうぜ」
「は…、俺」
「しょうがねえだろもう…」
「もうタイマー押すぞ」
つい数分前に見た意味有りげな表情で笑う優斗。スマホの画面を手早く操作すると、俺達の返事を待たずにタイマーはスタートされた。
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