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第29話
「そういう訳ではないんだ…」
それ以上言えず、僕は黙って下を向いた。
『言ってもわかってもらえない。
僕は、日向のこと好きだけど、世間では認めてもらえない。きっと家族にさえも。
この先、僕達の関係をどう説明すればいいのかわからない。
いつか捨てられることを考えたら、怖い、怖いんだ。』
その言葉を飲み込んだ。
「わかった。もう、いいよ。
俺、今日は帰るわ。じゃあな、瑞季。」
後ろを向いたまま、片手でひらひらと手を振ると、振り向きもせず日向は行ってしまった。
やっぱり怒らせてしまった。
でも、僕が何に怯えているのか、何に迷っているのか、日向には理解できないんだろう。
伝えても伝えても、わかってもらえない。
もどかしさが募っていく。
最初は小さなカケラのようだった不安感が、日向が優しければ優しいだけ大きくなっていく。
将来のある日向の邪魔をすることは絶対に嫌だ。
決断しなければ…
後々辛い想いをするよりも、今のほうが、傷が浅くて済む。
拳をぎゅっと握りしめて、僕はある決意を固めていた。
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