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**それはまるで雪解けの……**(2)

「……ごめんなさい」  ぼくの一方的な気持ちで傷つけてしまった。  謝れば――。 「大丈夫だよ」  俊也さんは腕が痛いのにそれさえも我慢してぼくを慰める。  ――もう、終わりにしよう。  この恋はすべて、なかったことにしよう。  父さんには、俊也さんじゃ力不足だ。怪我をさせられそうになったから違うボディーガードさんを雇ってと嘘ついてお願いしよう。  そうしたら、きっと父さんも納得する。  そうしたら、俊也さんも自由になれる。  こんな子供を相手しなくてもいい。  胸がズキズキ痛むけれど、きっとこれが正解。  大好きな人には元気でいてほしいから。 「明日、ぼくから俊也さんをボディーガードから外してもらえるよう、父にお願いしてみます」  ぼくは静かに首を振って、にっこり笑って見せた。  さよならの代わりに――。 「彼方くん?」  だからもう、傷つかなくていい。  無理にぼくの側にいる必要もない。 「ぼくは貴方が好きです。気持ち悪いでしょう? だからもう、いいんです」  さようなら。と最後にお別れを言うぼくに、ふいに腕が伸びてきた。  この力強い腕は十分すぎるほど知っている。  今までこの腕に守られてきたのだから。  ……俊也さん?  びっくりして顔を上げると、 「だったら気にしなくてもいい。俺も同じ気持ちだから――」  彼は静かにそう言って、ぼくの額に口づける。  それはまるで淡い雪解けのような口づけ。  春の訪れを知らせる優しくあたたかな……。

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