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**それはまるで雪解けの……**(1)

 ぼく、緋綾 彼方(ひあや かなた)には好きな人がいる。  その人は俊也(しゅんや)さんっていって、ぼくよりも10歳年上で、いつもとても優しくて穏やかで、背が高くて強くて格好いい人。  でもこの恋はナイショ。だって知られたら気持ち悪いって思われてしまうから。  だってその人とぼくとは同性。  そして彼はボディーガードでぼくはただのクライアントの息子。それだけ。  父さんが大手の社長で、一年前、ぼくが攫われかけたのがそもそものきっかけ。  彼にとってぼくは守るべき存在。それでもいい。それでも側にいられるならと、そう、思っていた。  だけど、この気持ちは日に日に大きく膨らんでいく。  どんどん好きになっていく。  この気持ち、どうしたらいいのかな。  ボーッとしてしまう日が続いていたある日、高校の学校帰り。黒塗りの車が目の前に止まったかと思ったら、銃口を突きつけられた。そうかと思えば俊也さんが助けに入った。  耳を劈く音と真っ赤な血。  ぼくを襲った相手は俊也さんに取り押さえられ、なんとか事なきを得た。  だけど――。  ぼくは俊也さんに怪我を負わせてしまったんだ。  幸い、怪我は腕だけで済んだ。俊也さんは凄腕のボディーガードだったから。  でも――。ぼくがいると、俊也さんは怪我をしてしまう。  今じゃなくても、もしかするとぼくのせいで命を落としてしまうかもしれない。  ぼくがいけないんだ。いつまでも彼の側にいようとするから。  想われなくてもいいから側にいたいなんて、馬鹿なことを考えてしまったから。  ここは病院。手当を受けた後、取り乱しているぼくを慰めるために個室にふたりきり。  でも、こんなの少しも嬉しくない。  いくら好きな人と一緒でも、少しも楽しいとは思えない。

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