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**夕暮れの朱よりも**(3)

 とにかく!!  今の俺にはそんな言葉は無縁だし、言われて嬉しい言葉じゃない。  ……それなのに……。  壁際まで追い詰めているのは俺だっていうのに、追い詰められているなんて、有り得ねぇっ!!  狼狽えていると、奴の手が伸びてくる。  ふたつの影が重なり、俺の唇に、何か弾力のあるものが塞がれた。  チュッ。  どこか遠くの意識の方で聞き慣れないリップ音がした。  もはや放心状態の俺は、何度も瞬きを繰り返す。 「……可愛い」  んなっ!! 「可愛いってなんだ!! 俺は先公にも怖がられてる不良だぞっ!!」  またもや言われた不似合いな言葉にやっと我に返った俺は、肩を怒らせ、大声で怒鳴る。 「そうだったね、ごめんね」  怒る俺に対して、此奴は肝が据わっている。口元には笑みを浮かべ、笑っている。  クスクスと笑う荘間の声が心地良い。そう思うのは、いけないことだろうか。  俺は、俺を恐れない此奴のことが……。  ああ、つまりはそういうことだ。  自分の気持ちを理解した。どうやら俺は、すっかり荘間のペースにはまってしまったらしい。 「……たっ、煙草は……やめてやるよ」  さっき触れた唇が熱を持つ。  恥ずかしくて口元を抑えたまま、とうとう俺は観念した。 「そう、良かった」  にっこり笑う荘間の顔は、夕日よりも輝いて見える。  俺は荘間から逸らした自分の顔が夕焼けよりも赤くなっていないことを願った。  **END**

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