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五章 激情と死骨 9
高崎が去った後も、マコトはしばらくの間タクミの傍を離れることが出来なかった。タクミが死ぬ可能性を全く考えていなかったわけではないが、第三者から発せられる言葉はあまりにも重くマコトを悩ませた。
「……タクミ?」
マコトはタクミの頬を軽く叩く。
「起きてよタクミ……もう朝だよ……」
しかしタクミの目蓋はピクリとも動かない。マコトは起こすのを止め、俯せたままのタクミを仰向けにした。見ると微かに胸は上下している。
まだ、生きているのだ。
「タクミ……」
マコトはもう何度目かも分からない口づけをタクミに落とす。そのまま下へ下へと進んでいくうちに、あえて見ないようにしていた鎖骨の咬痕が嫌でも目に入った。どれだけ歯型をつけようとしても、いくら傷痕をつけようとしても、高崎が残した印は消えない。
自分しか知らないまっさらなタクミは、高崎によって汚されてしまった。
「きれいにしなきゃ」
マコトはバスルームに視線をやり、のろのろと立ち上がる。
「きれいにしなきゃ」
泡立てたスポンジでごしごしと洗って。高崎が触れたところを全部綺麗にして。ああそうだ。高崎に裂かれたシャツの替えも用意しないといけない。その為には、まず鎖を外さなければ。
「きれいにしなきゃ」
マコトはタクミを繋いでいるベッドへと方向転換をする。首輪の鎖はベッドの足に何重にも巻きつけて、さらに南京錠で固定してある。
マコトはポケットから南京錠の鍵を取り出して、重たい鎖を解く。そうして解けた鎖の端を掴もうとしたその時、目の前から鎖が消えた。
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