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きみはわるい子

「あ~……、頭イテエ」 翌日、頭を抱えてうめく真宮を発見する。 「何してんの?」 「あ? うるせえな、ほっとけ。お前に構ってる余裕はねえんだよ……」 話し掛ければ案の定不機嫌そうで、ソファに腰掛けながら微動だにしていない。 傍らへと腰を下ろしても様子は変わらず、普段の快活さからはかけ離れて大人しくじっとしている。 「二日酔い? まあアレだけべろべろに酔ってりゃ当然だよね。ざまあみろ」 「うるせえ、話し掛けんな……。あ~、頭がガンガンする……」 「そんなに辛いなら横になれば? 膝枕してあげよっか。ほら、おいで」 「絶対にいやだ……」 「え~、なんで? なんかされるとか思ってんの? やらしいなあ、真宮ちゃんてば」 一方の手で膝を叩きながら、真宮へと持ち掛ける。 しかしあえなく断られて拗ねたように口を尖らせるも、彼はお構いなしに低く声を漏らしてばかりいる。 顔を覗き込んでも反応はなく、目を瞑っているからか視線に気付いていない。 手を差し伸べて頬へと触れれば、一瞬驚いたように肩を揺らしてから顔を向け、憮然とした様相で口を開いてくる。 「なに触ってんだよ」 「痛いの痛いの飛んでけ~ってしてやってんの。優しいからさ」 「痛ェのはそこじゃねえし余計なお世話だ」 「頭だっけ? 撫でてあげるからこっちおいでよ」 「いらねえ。何の効果があんだよ」 「リラックス効果は間違いなくあるって」 「ねえよ。あってたまるか」 口では嫌がっていても、払い除けたりはしない。 振り払われなければやめる理由もないので、先程から彼の頬を撫でている。 真宮といえば仏頂面で、溜め息をつきながら視線を逸らし、気だるそうに背凭れへと身を預けている。 身体が重くて仕方がないようであり、窓の外の晴天にも目もくれず、ひたすら安静を心掛けている。 「昨夜の記憶はどこまであんの? 俺にしがみついて離れなかったの覚えてる?」 「は? そんなわけねえだろ、気色わりぃことぬかすな」 「実は俺の匂いが大好きらしいじゃん。いい匂いっつって離れなかったんだけど。犬みてえにくんくん嗅いでた」 「それは……、犬だったんじゃねえのか? そうだろ、きっと」 「へ~、そう? 犬だったわけ? そう思いてえならそれでもいいけど、そんな苦しい言い逃れしなきゃなんねえんならもう少し気を付ければ? 毎回反省する割には、心掛けてるようには全然見えねえんだけど。つかこれもう何度目?」 微笑みながらも咎めるような視線を向けると、ばつが悪そうに眉をひそめる。 まあ覚えてるなんてこれっぽっちも思ってねえけど。 頬から離れ、座面へと投げ出されていた手に手を重ね、指を滑らせて無骨な感触を確かめる。 温もりが伝わり、僅かに動いた手のひらと重ね合わせながら、傍らから彼の横顔をじっと眺める。 「で、その後はめでたくえっちしました」 「言わなくていい……」 「アレ~? もしかして意外と覚えてる?」 「忘れられるもんなら忘れてえよ」 「なんで? いいじゃん。珍しく真宮ちゃんが甘えてくれて嬉しかったけど? ぜんぜん呼んでたし」 「だからうるせえって」 酔っていただけに一つも覚えていないかと思えば、多少は記憶にあるらしい。 指を擦りながら横顔を盗み見れば、居たたまれなさそうにも思えてくる。 「なんで気まずそうにしてんの? やっぱ覚えてんだ。隠してるなんてやらしい~」 「なんでそうなるんだよ。お前に抱かれたなんて楽しげに言えるか! う、頭イテエ……」 「ほらほら、突然動くから」 「うわ、おい」 勢いよく腕を引っ張り、見事に体勢を崩した真宮を受け止めると、そのまま膝の上へと寝かせる。 すぐさま起き上がろうとしたので遮り、一方の手で上体を押さえながら笑顔で見下ろすと、嫌そうに眉根を寄せている真宮と目が合う。 「最低の眺めだ……」 「俺に膝枕されて喜ぶ奴はごまんといるけど」 「そんなに寝かせてんのか、お前」 「あら~? なに、妬いた? かわいい」 「ちがう! そんなわけねえだろ!」 「はいはい、真宮ちゃんにしかしねえから安心してよ。少し眠れば? ちょっとは楽になるかもよ」 不貞腐れたように顔を背けている真宮へと、髪を撫でながら笑いかける。 首筋に触れてやろうかとも考えたが、更にへそを曲げそうな気がしたので控え、頬を指先でつつくだけにとどめる。 「やめろ。寝かせる気ねえだろ」 「へえ、寝るんだ。俺の膝の上大好きじゃん」 「いたくているわけじゃねえ」 「分かったって、暴れないの。トントンしてあげたら眠れる?」 「ガキじゃねえんだよ」 「大して変わんねえじゃん。あ、イテ。殴った」 悪さを働いた手を捕まえると、そっぽを向きながらうるせえと悪態をつかれる。 一旦会話が途切れ、急に訪れた静寂に包まれながら、捕らえていた手を慈しむように撫でていく。 真上から見下ろせば、どことなく気恥ずかしそうな表情が窺え、彼にしては珍しく好きに触らせている。 「……なあ」 「ん? なに」 不意に、手に触れながら見守っていると、遠慮がちに声を掛けられる。 「あんま気に病むんじゃねえぞ。……弱くたっていいだろ。つうか、お前はもっと吐き出すことを覚えろ。危なっかしくて仕方ねえ……」 一瞬目を丸くして、食い入るように真宮を眺めてみるも、彼は頑なに視線を合わせようとしない。 仄かに頬を染めているようにも窺え、がらにもないことを言ってしまったと感じているのだろう。 それでも言っちゃうんだからマジでお人好し。 「なにそれ、慰めてくれてんの? つうか狸寝入りだったんじゃん。やらしいことするね」 「ちがう! なんか……、寝てたら聞こえたんだよ」 「ふうん、じゃあやっぱ全部覚えてんの? 昨日のプレイの答え合わせしよ」 「するかバカッ!」 起き上がろうとする身体を押し止めつつ、不器用ながらも欲しい言葉を掛けてくれる彼に笑みが零れていく。 「……ありがと」 「ん? なんか言ったか? て、なにす……! 鼻をつまむな!」 「え~? たまになら飲んでもいいよって、かわいいから。良かったね」 「良くねえだろ、この状況! 寝かせんじゃねえのかよ!!」 「あ、ただし飲むんなら俺の前だけにして」 「なんでだよ! 楽しい酒にならねえ!」 【END】

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