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憂いと光
仄かに光を感じながら目を覚ますと、少し驚いた表情で見下ろす視線と交わる。
「真宮ちゃん……? 何してんの」
「ようやくお目覚めかよ」
「寝てたの? 俺。真宮ちゃんがずっと見ててくれたわけ?」
「具合は?」
「あ~……、特に何ともねえかな」
「そうかよ」
ぶっきらぼうに返事をされ、一旦視線を外されてから、淡い光の正体が街灯であった事をようやく察する。
涼やかな風が心地良く、寝起きの割に凪いだ気持ちでいると、遠慮がちに伸ばされた腕の行く先に疑問を感じる。
何となく眺めていると、不機嫌そうな表情が見えてから、顔に触れた指が目尻から溢れていたものを掬い取る。
「ゴミでも入ったか」
「アレ……、泣いちゃってたの? 真宮ちゃんてば優しい。惚れ直しちゃいそう」
「とっとと起きろ。もう何ともねえんだろ」
「よく覚えてねえんだけど、何かあったっけ?」
「別に何もねえよ。テメエのせいで時間喰った」
いつの間にか泣いていた事に、全く気付いていなかった。
何か夢でも見ていたのだろうか、今はもう面影すら追う事が出来ない。
だから驚いた顔をしていたのかと、ふと思い出して今更ながらに理解する。
「何か言ってた?」
「何が」
「眠り姫してる時の俺」
「ぐうぐう暢気に寝てただけだ」
「あ、そう。真宮ちゃんが側にいたから安心したのかも」
「薄気味悪いこと言うな」
「あ、信じてねえの? 結構真宮ちゃんのこと好きなのに」
そうして身動いだ時に、何かが敷かれている事に気が付く。
手で触れ、仄かな灯りを頼りに視線を向けて、枕代わりに敷かれていた物が衣服であると分かる。
「コレ真宮ちゃんの?」
「ああ」
「ホントこういう事するんだよねえ、真宮ちゃんは」
「どういう意味だ」
「俺にまで優しくしてどうすんの?」
ゆっくりと起き上がり、正面を向いたところで階段に居る事が分かり、目の前には河川敷が広がっている。
何でこんなところにいるんだか、と考えてもなかなか思い出せず、そのうちどうでもよくなってくる。
敷かれていた上着を真宮が手に取り、枕が回収されると、彼の横顔が映り込む。
「見捨てられなかったんだ、俺のこと」
「放り出して行くわけにもいかねえだろ」
「可愛いなァ、真宮ちゃんは。だからチョロいんだ」
「おい、テメエ」
「悪かったって。ありがとね、真宮ちゃん」
腕に触れると、不満げな表情で見つめられてから、手を振り払われてしまう。
くすりと微笑むと、不服そうな彼から改めて視線を注がれ、後悔するように溜め息を吐き出している。
「やっぱ捨てていけば良かった」
「悪い男に浚われちゃうかもしれないじゃん。俺可愛いから」
「ああ、疲れる。浚う奴が気の毒だろ」
「ンなこと言って助けてくれるもんなァ、真宮ちゃんは」
知るか、とぶつぶつ文句を並べているが、きっと彼は手を貸してしまうのだろう。
チリ、と心に燻る感情の意図が分からない。
優越とも、執着とも、苛立ちとも呼べるような揺らめきが、いつからか胸の奥で仄かに灯っている。
あの時、急に視界が暗くなって気持ちが悪くなった事を思い出し、お人好しな彼に呆れながらも何となく今は気分がいい。
「寝込みを襲わないとは紳士じゃん」
「誰がテメエの寝込みなんか襲うかボケ」
「俺と寝たい奴なら結構いるのに。知らないの?」
「知りたくもねえ」
「まあ、真宮ちゃんとはもっと深い間柄だし。ね……?」
「触ンな」
密やかに触れても、大袈裟に振り払う彼に笑みが零れ、不満げな表情に対して居心地のいい時間が流れていく。
「もう何ともねえんだろ。俺は行くからな」
「まさか俺を置いて帰るつもり? こんなところに一人で? 襲われたらどうすんの?」
「どうにもならねえだろ、お前は」
「やらしい事されちゃうかも」
「ハァ~……、元気だな。よし、じゃあな」
「おい、待て。ほら」
早々に立ち去ろうとする真宮を呼び止め、手を差し伸べる。
すると彼は、暫し黙って見つめてから溜め息を漏らし、それでも腕を掴んで引き上げる。
「普通こういう時さァ、手ェ握らない?」
「誰がテメエとなんか手ェ繋ぐかよ」
「あ~あ、真宮ちゃんてホントつまんないなァ。もったいない事すんなよ」
「うるせえ、とっとと歩け。やっぱその辺に捨てるべきだった」
「そんなこと出来ねえくせに。お人好しな真宮ちゃん」
街の喧噪を遠くに聞きながら、歩き出した彼の後を追う。
不思議と落ち着く気持ちが分からなかったが、少なくとも今はそれでいいと思えた。
【終】
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