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第15章の12

 その彼は、まあ自分の曲を実に素晴らしくカバーしたということで、 諒を気に入って飲み会に誘ってくれたのだが… もちろん緊張して諒はさっぱり酔えなかったが、その人がかなりできあがってきたところで、 諒が若いのに子持ちという話題になり、そのことにも親近感を持ってくれたらしい。 それで、別れた妻のところに残してきた娘と、面会の時の接し方に困っていると話し始め… 「…あ、娘がいるのは麻也くんの方かあ…」 と言ったのだという。諒が言葉を失っていると、隣にいた彼のチーフマネージャーが、 「その話はちょっと…」 と割って入って止めた。それを、酔った先輩は自分の間違いを指摘されたと思って不機嫌になり、 でも、諒には、 「名前だって知ってるよ。うちの子と同じだから。麻美(まみ)ちゃん、て言うんだよな? 」 諒がどう答えたものか困っていると、さっきのマネージャー氏が、 「ですから、事務所も知らないんだから、 メンバーに訊いても迷惑じゃ…」 でも、先輩はにっこりと、 「君と俺との仲で、そんなこたあないよな、諒くん? 」 とまで言われ…諒は仕方なく、麻也は最後に加入したメンバーなので、 過去はよくわからないというと、 またマネージャー氏が、 「…そうだよね。それに麻也さんは<オレの子じゃない>って断言したんだもんね? 」 「え? そうなの? 」 これには先輩も驚いていたが、諒もショックを隠すのに苦労してしまった。

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