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第4章の5

 次の日から麻也は、バンドのこれまでの音源を参考にしつつ、曲と歌詞を書き始めた。 「…でも、俺の曲はポップ寄りになっちゃうんだよなあ…」 歌詞は、同性愛とか社会批判とか、ゆがんだ純愛とかを、諒にもっと書き込んでもらうとして…」  どうにか仮歌まで入れ、次のリハーサルの時にでもテープで持っていくと、みんな喜んでくれた。 「ちょっとポップだったかなあ? 」 「いや、これまでと感じが変わっていいんじゃないかな。」  諒の無言が怖かった。麻也は恐る恐る、 「やっぱ、歌いづらそう? 世界観合わない? 」 「いや、こういう曲もいいかな、と思うんですよ。 お客さんにアプローチするような。 ただ、俺には書けないな、と。せっかくだからチャレンジしてみます。」 すぐにでもものにしそうな勢いの諒に、 「せっかくの曲だから、じっくり育ててもいいんじゃないかとも思うんだけど、兄貴、どう? 」 直人も、 「俺もそう思う。次のライブまでなんて急がなくて、その次のライブくらいを目指すことにして。」 諒は困ったような顔をして、 「客に、今のセットリストで飽きられないうちに、俺はこれをやりたい。」 「でもお前だって時間なさすぎだろうよ。」 「まあそうだけど、さっそくやってみようよ。」 だがもちろん、その日だけではまとまるはずもなく、最後には諒も断念したのだった。

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