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第4章の6

「諒のヤツ、どうしたもんかな。」  二人きりの車の中で、真樹は困ったように切り出した。 「どういうこと? 」 「兄貴のこと、意識し過ぎてる。」 麻也はドキっとした。どういうわけか。なぜか。 そして、真樹の次の言葉でなぜかほっとしたことに驚く。 「まだ出会って間もないのに、兄貴からあまりにも多くを吸収しようとしてる。 そのくせ、何か距離を置いちゃってるから、ステージではどうなっちゃうの?って不安になるよ。」 麻也はどうしてか後ろめたさのようなものを感じ、あいづちを打つ必要があると考えた。 「確かにね。どうしてか遠いんだよね。」 そして、あっと思った。 「まさか、やりづらくなったからバンドを辞めるなんてことはないよね。」 怖いことに、真樹は沈黙… 「真樹…」 「あいつにもプライドがあるだろうしね。 バンドをここまでにしたのは俺だ、って。 曲なんかほとんどアイツのだし。」 「…」 「だから、最悪、我慢してもメジャーに行くのか、 アマチュアのままでもマニアックな路線を貫くのか、 天秤にかけるかもしれないね。」

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