83 / 1053

第4章の7

 なぜか、すごくショックだった。 それは、せっかく加入したバンドのメンバーが抜けることのショックではなく、 諒と離れてしまうことの寂しさのような気がして…麻也は自分でも驚く。 「兄貴はどう思ってるの? 」 麻也は一瞬とまどったが、 「い、いや、諒はまれに見るボーカリストだと思うよ。 よそに持ってかれたりしたら大変だ…」 「でしょでしょ? 」 「そしたら、俺の方から距離を狭めていくよう努力してみるよ。」 「頼むよ。あ、でもアイツ、意外と繊細だから気をつけて…」  …と、いざ引き受けてみたものの、いい方法は見つからない。 (…に、しても諒なら俺、距離を縮めてもいいんだ…) 他人は苦手なはずの自分の変化に、麻也はまた驚いていた。  とはいうものの、結局すぐ二度目のライブになってしまい、 麻也は楽屋でなるべく諒に話しかけるくらいしかできなかった。 メイク前の諒は困惑気味のようだったが… (…彼が集中を始めるのはいつからだろう…) タイミングをはかっているうちに、自分の準備の時間になってしまったので、 麻也は諒から離れた。 「今日もがんばろうね。」 とだけはどうにか伝えて。

ともだちにシェアしよう!