430 / 1053
第10章の38
「真樹は歌も上手いからなあ…」
何気なく諒がつぶやくと、歌には自信のない麻也が、
「何その、真樹『は』っていうのは! 」
「お宅の弟さんホメてんだからいいじゃん! 」
「うるさい! 曲聞こえないよ! 」
直人に怒られるほどの、いい出来の曲だった。
新鮮なのだが、これまでの路線とも外れることのない…
それで、アルバムの全体像が見えてきたら、一曲チョイスするという贅沢な計画になった。
しかし…肝心の2人は、ツアー中に色々と考えていたとはいえ、その『ヤマ』すらも張れてはいなかった。
諒はネタ帳をパラパラとめくり、
「ま、俺は相変わらず、同性愛と社会批判と純愛を書くとして…」
とは言ったものの、合うネタがないのか、小首をかしげるとネタ帳を閉じてしまった。」
「諒、狂気の愛は? 」
と、麻也が言うと、
「あ、そうだね。タイアップでね。あと悲恋と、か。」
「兄貴は? 」
「タイアップは間接的な応援歌と、苦悩して救いのある曲とで、
あとは全体も見て足りなさそうなのを作る、と。」
「やっぱ兄貴がアンカーになっちゃうよね。
スケジュール本当に大丈夫なの? 」
諒も苦笑いしながら、
「いざとなったらゴーストライターやるよ…」
「諒ったら何を…大丈夫だよ…」
麻也も苦笑いになってしまった。
すると直人が、
「その間、ラジオとテレビは俺全部出席するけど、二人以上、って言われたら、
悪いけどみなさんも交代でついてきてね。」
…そう言われて気づく。まだまだ、「この前のツアーと武道館」のインタビューもしばらく続くのだ…
ともだちにシェアしよう!