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第13章の72

 人通りの少なくなった通りで須藤を見送ると、直人はちょっとフクザツな面持ちで、 「さっきはどうもありがとね。お礼におごらせて。軽く一杯、どう? 」 と言いながら、いいバーがひそんでいそうな小路を一本曲がりかけた。 が、真樹は珍しく、 「ごめん、直人、俺ちょっと野暮用が…」 諒もピンときてしまうが、言わない方がいいのかも…しかし直人自身が、 「あ、恵理ちゃんとデート? 」 「あ、ああ、うん…」 「諒は? 」 「俺はお願いしようかな。ってか、何か話をしたい気分。 そうだ、真樹が帰る前に聞かせてよ。どんな手ごたえだったの? 」 「そうそう、それそれ…」 真樹も身を乗り出してくる。 すると直人は、 「うーん、わかんない。俺の連絡先は受け取ってくれたけど…」 「志帆ちゃんからはもらえなかったの? 」 言ってから、しまった、と諒は思ったが遅かった。 「うん… 」

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