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第45話
肩の力を抜いてビールを飲んでいると色味が違うソーセージが盛り付けられた皿が置かれた。涼介が頼んだ三種盛だろう。
「これ、俺のお気に入り。このハーブ入りの美味しいよ」
「あ、はい。いただきます」
フォークを渡された早速ハーブ入りのソーセージを食べた。熱々のソーセージは肉汁も当然熱々で思わず「アッツ!」と叫び、あわあわと目を白黒させて咀嚼する。
そんな泉に涼介と柴が楽しげに笑った。
子供のような自分に気恥ずかしさがわくが、ソーセージはとても美味しく無言で食べ進める。
「美味しい?」
「は、はい。めっちゃうまいです! スパイス?が効いてる……みたいな」
実家で出てくるソーセージより高級そうな味がする。
うまく美味しさを言葉に出来ないが気持ちは伝わっているのか柴は笑みを浮かべた。
涼介もソーセージを食べ、うまい、と機嫌よくビールを飲む。
「これ柴さんの手作りなんだよ」
「えっ、ソーセージって作れるんですか?」
「作れる作れる」
泉が目を丸くすると、涼介が吹き出しながら頷く。簡単に作り方を説明してくれる涼介。話上手だからか料理が得意でない泉でも作れそうな気がしてくる。
「……作れそう……な気がしたけど、絶対俺無理だな。材料の名前とかちょっとわかんないのあったし」
「全部スーパーで手に入るよ。なんなら今度一緒に作ろうか?」
グラス片手に涼介が提案してきて泉は目を瞬かせる。たいして自炊は得意でもなく今まで自分で作った料理を美味しいと思ったこともない。そんな自分が涼介に教えてもらえばソーセージというハイレベルそうなものも作れるのだろうか。
目の前の美味しいもの、匂い、そして涼介の話術に食欲が煽られていた泉は好奇心をそそられる。
「……いいんですか?」
興味が勝っておずおずと聞き返したところで、「お待たせ」とオムライスが置かれた。
黄金色のふんわりとした厚みがありそうな卵。ケチャップは別に添えられている。パッと目にしただけで間違いなく美味しいと思える綺麗なオムライスに泉は目を輝かせた。
「うまそう!」
「うまいぞ」
思わず呟いた泉に柴がニヤリと笑いかける。
「ソーセージもうまかっただろう?」
「は、はい」
「俺が教えてやろうか?」
「へ?」
キョトンと柴を見つめ返せば、柴が皿の上のソーセージを指差した。
「ソーセージだよ。そもそも涼介に料理を教えたのは俺だしな」
涼介の手料理を思い出す。料理上手なのは柴が料理の師だったからか。なるほど、と納得していると慌てたような声が隣で上がる。
「ちょ、ちょ! 柴さん!!」
視線を向ければ涼介が声同様に表情に焦りを浮かばせていた。
「泉くんをからかわないでくださいって言ったでしょ!」
珍しく不満気な様子の涼介。
泉は、からかわれた?、と内心首を傾げながら涼介と柴を見比べる。
柴は楽し気に声を立てて笑っていた。
「実際俺の方が料理上手いんだから、習うなら俺の方がいいだろ? なぁ、泉?」
「あー! ダメダメ!! 呼び捨てもダメ!」
涼介が身を乗り出して声を荒立て、柴がさらに大きな声で笑い出す。
どういう展開なのかがよくわからない泉は呆気に取られた。
「え、えっとあの……俺、涼介さんに教わります」
よくわからないが、それでもわかるのは先に涼介が持ちかけてくれたことだということだ。
それに当然柴の料理は美味しいが、涼介の手料理も負けてはいなかったと思う。
オロオロとしながら思ってることを告げれば涼介が呆けたあと満面の笑みとなり柴はやはり笑っていた。
「俺に任せて、泉くん!」
「は、はい。今度よかったら」
「もちろん!」
機嫌がなおったらしい涼介が嬉しそうで泉もホッとする。柴はようやく大きな笑いはおさめながらも緩んだ口元のままだ。
「柴さんニヤニヤうざいー。早く次の料理してくださいよ」
手で追い払うようにする涼介に柴が「ハイハイ。あ、オムライス熱いうちに食えよ」とわざとらしいため息をつきつつ、泉に促した。
そう言えばと湯気といい匂いを漂わせているオムライスの存在を思い出す。
「いただきます」
手を合わせてからスプーンでオムライスをすくう。ふわふわの卵の断面に目を輝かせながら口に運ぶと泉は顔を緩めた。
「うっま!」
シンプルなオムライス。だがほのかなバターの風味とふわふわのオムレツとケチャップライスと、絶対に自分では作れないしこれまで食べたオムライスの中で一番かもしれないというくらい美味しい。
涼介と柴がそんな泉を微笑ましそうに見ていることに気づかないまま、泉はぱくぱくとオムライスを食べ進めていったのだった。
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