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第2話

 そして――3週間後。 「早川くん休憩時間だよ」 「あ、はい」  女性社員の野口に声をかけられて泉は什器の中にペンを詰め込んでいた手を止めた。ペンの空箱を傍らに置いていたゴミ袋の中に放り込む。筆記具コーナーの什器はまだ半分以上が空だ。  バイトに合格したと連絡が来たのが2週間前。その1週間後からバイトは始まった。  最初の1週間は本店での研修。そして今日からようやくテナントへと来たのだ。  商業施設のオープンは1週間後で、今日からは商品の陳列、値札の貼り付けやPOPの作成、あとは接客の研修。まだ客がいない分比較的のんびりと仕事は進んでいた。  泉が働くことになったバイト先であるループステーショナリーは泉を入れてバイトが3人、店長を含め社員が3人の合計6人だ。シフト制で1日を4人体制でオープンからと、閉店までを回すことになっている。オープン前のいまは例外で朝から四人出勤し、6時半には退勤となっていた。  同じバイトで2つ年上の戸口はさっき泉に声をかけてくれた野口と一緒に一足先に休憩にいっていて戻ってきたところだ。 「休憩行ってきます」  声をかけてバックヤードへ向かうと背後で店長である一貴がなにか言っているのが聞こえて、ついで足音が追いかけてきた。  泉はどきりとしつつちらり振り返ると一貴が笑顔で肩を並べてきた。 「お疲れ」 「お、お疲れ様です」  初めて会った面接のとき好みだと思ったのは勘違いではなく、1週間前に再会したときもやっぱり好みだと再認識した。  マイノリティなんじゃないかとずっと考えるのを避けていたのに、一貴と出会って泉はすんなり受け入れたのだ。自分が同性愛者なのだ、と。 「店長もお昼……ですよね」  一貴のそばにいるだけでそわそわしてしまう。変な態度になっていないか緊張しつつ話を振ってみる。 「ああ」 「外に行くんですか?」  すらりとした長身で人目を引く一貴。スーツのジャケットは脱いでワイシャツ姿。ありふれた社会人の恰好にしても泉にはきらきらと輝いて見える。きっとそう見えるのは泉だけでなく多くの女性もだろう。  そう――モテるんだろうな。経験豊富そうで、当然ノンケだろうということはわかる。  もちろん一貴と両想いになる可能性もないということも。  ただ泉にとっては遅い初恋で――想いが通じるとか以前に、こうして同じ職場で顔を合わせ喋ることができるだけで満足だった。 「そうだな。ラーメンでも食いに行こうかな。早川くんも一緒に行くか?」 「いっいいんですか?!」  満足ではあっても、こうして気がけてもらえると一瞬で舞い上がって声が裏返る。  泉はテンションが上がりすぎたことに気づいて口を引き結ぶと誤魔化すように口角だけ上げた。 「ああ。店を出て5分ほど歩いたところにあるんだよ、ラーメン屋」 「ぜひお供させてください!」  結局はまた声をひっくり返らせて一貴に笑われた。 「早川くんは元気だな」  口を閉じていると理知的でクールな雰囲気の一貴もかっこいいが、楽しそうな笑顔も一気に親近感が出てかっこいい。  どちらにしても店長かっこいい。  リーチが違うのか颯爽と歩く一貴に対して泉は若干早歩きになりながら、そんなことを考えつつにやけてしまう顔をさりげなく掌で擦る。 「そ、そうですか? 元気だけが取り柄なんで!」  大きな声で返事をすると一貴は口元に手の甲をあて、吹き出していた。眼鏡の奥の目が笑いで伏せて、開いて泉を映す。 「その調子で店がオープンしてもがんばってくれよ。ラーメンは奢ってやるから」  ああでもほかのメンバーには内緒な。  口元の手をそのまま人差し指を立てて、秘密だぞ、と言う一貴に泉はこれが恋ってやつかとふわふわしながら頷いた。 ***

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