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第3話

 6月上旬。本格的な夏がすぐそばまできて暑さを肌で感じる時期。数日前オープンした商業施設が迎える初めての日曜日。ループステーショナリーはあわただしい空気に包まれていた。  正直、泉は100円均一や量販店で文房具を買うことのほうが多く、基本定価販売の文房具店はそんなに忙しくないんじゃないか、と考えていた。  が、それは大間違いだった、と空調は効いてるのに汗を流しながら商品を袋に詰めていた。 「合計で4320円です」  レジは一台しかないレジカウンター。そこに泉を含め今日の出勤四人が右往左往している。  いまは10人ほど並んでいて、どうしてこんなに多いのかと謎に思わずにはいられない。  あと30分もすれば6時半で早番だった社員の木内とバイトの篠崎が帰ってしまう。  それまでにこの波が引けばいいがどうなんだろうか。  その間にも電話はかかってくるし、すみません、と呼ばれる。  とりあえず丁寧に間違えないようにと泉は必死で働いていった。 「いいよ、上がって」  ようやく並んでいたお客がすべて捌けた、と一息ついたとき一貴が木内たちへ声をかけた。時計は6時40分を指したくらいだ。 「大丈夫ですか、店長?」 「まぁなんとかなるだろ。いまここで帰らないとずるずる残業になるぞ。あとは俺と早川くんでがんばるから、な」  笑いかけられ泉はいままでの疲れが一瞬で吹き飛ぶのを感じながら大きく頷いた。 「はい! あとは任せてください! 一応俺もバイト経験豊富なんでレジ打ちまくります!」  一貴に頼られてる! ここで踏ん張らなきゃ男じゃない!  泉の勢いに一貴たちは楽しげに笑い、お疲れ様でしたと売り場を後にして行った。  シフトは6人のメンバーで社員バイトでペアになり早番遅番で組まれている。  泉は今月一貴とペアになっていた。  早番のふたりが帰ってしまえばふたりきり。  嬉しくもあり、意識しすぎて緊張もしてしまう。   うっかり一貴に見惚れていて「どうした?」と言われることも多い。  気を引き締めてがんばろう!  気合を入れなおしつつも結局一貴に意識を向かってしまうが。  木内たちが帰ったあとはピークを越えたのか大きく並ぶことはなかったがそれでも客足は切れたかなと思えばまた来てとそこそこ売り場は賑わっていた。 「すみません、ちょっといいですか」  レジカウンターの向こう側から年配の女性客に声をかけられ接客していた泉は顔を上げた。  レジ前には数人並んでいてすぐに対応出来そうにない。  どうしよう俺が抜けた方がいいのかな、左隣でレジを打っている一貴を見上げると一貴が女性客を見る。  そしてその視線が少し逸れたことに泉は気づいた。 「お待たせして申し訳ございません。係のものがお伺いさせて頂きます。ーー八木」  女性客へと向き直りにこやかに一貴が告げる。 「お客様のご対応を」  ーー八木?  え、俺の名前違うけど。  泉がそう思った瞬間、カウンターの中に一貴と同じくらいの身長のスーツ姿の男が入って来た。  その男はカバンを隅に置くと爽やかな笑顔で「どういった御用ですか?」と接客を始めた。  初めて見る顔だ。  一貴よりは若い。  だが自分よりは歳上だ、と泉が気にしてると一貴から名前を呼ばれて接客中だったことを思い出し慌てて対応を再開した。  それから十数分して八木という男が女性客と談笑しながら商品をレジへと持って来たのだった。 ***

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