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第5話

 車で来ていた涼介に乗せてもらいファミリーレストランへ入った。  日曜の夜だがわりに席は埋まっている。三人は喫煙席を希望し、分煙スペースへと案内された。座るよう一貴に促され泉が奥に座りその隣に一貴が向かいに涼介が腰掛けた。  すぐそばに一貴がいる。職場でも隣に立つことはあるがいまはプライベートだ。涼介の車で移動しているときから仕事中とはまた違うリラックスした様子が見てとれた。それはきっと涼介がいるからだろう。  新たな一面を知れて泉は顔が緩みそうになるのを必死に耐えていた。 「早川くん、どれにする?」  2つあるメニューのうち一つは涼介が見ている。  もう一つのメニューは一貴と交互に見るのだろうと決まるのを待とうとしていた泉は一緒に見ようと言うように広げられたメニューに驚く。  促されてメニューを見るが、一貴との距離が一層近くなっている。動揺するのがおかしいので平静を装いながら泉は「店長はなんにするんですか」とメニューに視線を落とした。  だけど意識はすべて隣の一貴に行ってしまう。いままでは気づかなかったがいい匂いもしてくる気がする。  心臓はドキドキしてうるさいし、一貴にこの動悸が気づかれているんじゃないか、とありえないことなのに泉は気が気じゃなかった。 「俺は肉だな」  ステーキが載っているページを開いてあっさりと200gのステーキを一貴は指さした。 「早川くんはどれにする?」  メニューを一緒にのぞき込む、はほんのわずかの時間で終わった。一貴がメニューを泉のほうへとずらす。 「……えっと」  なんにしよう。泉はようやく意識を目の前のメニューへと向けた。  ファミレスでリーズナブルとは言え、初の給料日を1週間後に控えている財布は紙幣を受け入れる余裕ありすぎるくらいに大したものが入っていない。 「ここは奢るから好きなものを食べればいいよ。誘ったのは俺だし」  さらりと一貴が言ってきて慌てて泉は首を振った。 「いや、大丈夫です!」  この前はラーメンを奢ってもらって、今日もというわけにはいかない。 「じゃー俺もー」  自分で払います、と言いかけたとき、声がかぶさった。え、と前を向けばすっかり存在を忘れていた涼介が満面の笑みを浮かべている。 「今日だけだぞ」 「ラッキー! じゃあ俺はこのWステーキで!」 「……お前遠慮ってものを知らないな」  涼介が頼んだものは一貴が頼んだものよりも高いものだった。  一貴は呆れてはいるが気分を害した様子もなく「次は俺が持ちますから」と涼介の屈託のなさに「その言葉忘れるなよ」とにやりと笑い返している。  長年の付き合いを感じさせるやり取りに呆けていた泉は「ってことだから、早川さんも遠慮なく頼んでください」と涼介に促され、戸惑って一貴を見上げた。 「こいつの言う通り今日は遠慮なく頼んでくれていいから。早く頼んで食おう。腹が減った」  ほら、とメニューを押し付けられたらそれ以上断るのも悪く、ありがとうございます、と泉はようやく目移りする料理の数々から選び始めた。

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