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第四章 † ①快楽に溺れる淫らな躰。

 広い一室のそこはおそらくこの男の寝室だろう。両壁で固定してある燭台の炎がオレンジ色に揺らめく。薄暗い室内がどこかもの悲しい。バルコニーに続く窓はこの部屋と外界とを切り離すように固く閉ざされ、遮光カーテンに覆われている。部屋にあるのはキングサイズのベッドとナイトテーブルのみの、恐ろしく殺風景な部屋だった。 「最近良くここに来るが、監視のつもりか? いいか、これ以上ぼくに付き纏うと酷い目に遭うぞ」  そう言うなり、クリフォードはカルヴィンをベッドへと突き飛ばした。弾力のあるベッドはカルヴィンを容易に包み込み、沈める。  ――ああ、なんということだろう。彼は樹海で出会った自分のことを覚えていたどころか監視していたことにも気付いていたらしい。  これは脅しだ。姉はこの男に殺されたに違いない。そして自分もまた、姉のように殺されるのだ。 「樹海にあった白骨化の遺体はお前の仕業だろう? 八年前、姉さんを殺したのはお前だなっ!? 人殺し! 殺してやるっ!!」  よくも姉さんをっ!!  恐怖を忘れ、怒りを露わにするカルヴィンは大声で怒鳴る。冷淡な眼で見下してくる彼を睨みつけた。  カルヴィンは今、神経が高ぶっている。自分が何者であるかも忘れ、怒りに身を任せていた。胸にはどす黒い殺意が芽生える。懐からピストルを取り出し、銃口を彼の胸元に突きつけた。

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