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最終話 自由の唄

 珍しく晴れ渡った空に、小さな黒い影が歌いながら飛び回る。  きらきらと輝く大地の上を、すいすいと泳ぐように。  自由を喜ぶ朗らかな歌声に、真夏の太陽がさんさんと光を与える。  まるで、幼い燕のはばたきを後押しするかのように。  艶やかな黒い羽と、鋭く空を切る二本の尾っぽ。   白い胸を膨らませて誇らしげに歌う、小さな燕たち。  その群れの中に、まだまだ年若い燕が一羽。  ついさっき飛べるようになったばかりの若鳥が、一生懸命に黒羽を羽ばたかせている。  皆に追いつきたいと空を見上げて、必死で羽ばたく。  黒く伸びやかな翼を、めいっぱいに開いて。  仲間たちがその若鳥の回りをくるくると舞い、彼を励ます。  仲間たちに勇気づけられ、若鳥も風に乗り、高く高く飛び上がる。  仲間と歌うは、自由の唄。  高く、明るく、遮るもののない、この澄み渡る青空をゆく。  胸に蘇る、幼気(いたいけ)な感情。  ただここに()ることを、嬉しく思うこの気持ち。  軽やかに舞い、朗らかに歌う。  人々に寄り添い、営みを共にしながら、燕たちは明るい声を響かせる。  皆で歌おう。    この素晴らしき、自由の唄を。        『琥珀に眠る記憶』 ・  完

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