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琥珀に眠る記憶ー新章ー
プロローグ
鞍馬山には鬼が出る――
夕暮れ時、山の中を一人で歩いていてごらん。
足元から生えた濃ぉい影から、ぬっと二本の腕が伸びてくる。
けむくじゃらの、太ぉい腕だ。
長い指には鋭い鉤爪が生えていて、そこにはこれまで食ってきた子どもたちの血垢が、べったりとこびりついているんだよ。
いいかい、子どもたち。
日が沈む間際、夕日が最も朱く光り輝くあの時間。
絶対にお山に入ってはいけないよ。
さもないと――……。
+
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!!」
少年が一人、薄暗い山の中を駆けている。踏みしめる地面はふわふわとしていて、まるで雲の中を走っているかのように覚束ない。
あたりを覆う薄ぼんやりとした霧と、冷たい小雨。
身体はじっとりと冷え切って、必死にどこかへ逃げようとする少年の脚を重くする。
――先生の言うことをきかなかったから、こんなことになったんだ……。
あたりにこだまするのは、不気味な鴉の声。しかしその姿は一羽も見えない。
ばさばさ、と羽ばたく音だけがあたりに響いて、少年の不安を掻き立てる。
――こわい、怖い……! どうして、どうして誰もいないんだよ……! どうして、こんなに暗いの? どうして……!
そのとき、目の前に黒い何かが立ちふさがった。少年は仰天し、思わずその場に尻餅をついた。
じっとりと手に張り付くのは、冷たく濡れた落ち葉である。その冷たさに全身がぶるりと震え、そして……。
「あ……あ……」
霧の中に佇む黒い巨体から、ぬっと何かが伸びてくる。
それが何かの腕だということに、少年はすぐに気がついた。
たてがみのようなもので覆われた頭からは、二本の角が生えている。
霧の中に浮かぶ影――それはまるで鬼のようで……
「だれか……だれ、か……」
叫び声を上げることもできぬまま、少年はただただ震えるばかり。
その次の瞬間、鬼が腕を振り下ろした。
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