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fin. 離れた空

 年明け早々の、関西国際空港。  舜平はトランクを転がしながら、混雑した広い出発ロビーを歩いていた。  正月で暇だからと、家族総出で見送りをしてくれたことが、恥ずかしながらも少し嬉しかった。  珠生とは、あの日以降連絡をとりあってはいない。  彼は今、健介を連れて実家へ帰っているはずだ。健介の疲弊した姿が、容易に想像できる。向こうで会ったら、励ましてやらなければと思った。  屋代拓はまだ到着していないらしく、舜平は適当に空いたベンチに座って一息つく。  家族づれが多いこの時期、子どもたちのはしゃぐ声やぐずる声、それを叱る親の声などであたりは非常に賑やかだった。  ふと、携帯電話が震えているのに気づく。  ダウンジャケットのポケットから取り出すと、珠生からの着信だった。  珠生からの電話など初めてだ。舜平は驚いて、電話に出る。 「どうした? 珍しいやん、電話なんて」 『……まだ電源切ってなかったんだね』 「ああ、まだ搭乗まで時間あるし、拓も来てへんしな」 『そっか』  何となく、沈黙が流れる。電話の向こうで、何を話していいか分からず戸惑っているであろう珠生の姿を想像すると、笑えた。 「無理すんな。電話、苦手なんやろ?」 『……うん』 「ありがとうな、わざわざ連絡くれて」 『別に……』 「千秋ちゃん、喜んでたか?」 『うん、久しぶりに四人で年越したからね。両親はすごく疲れてたけど』 「はは、そうやろうな。先生から話し聞くの、楽しみや」 『慰めてあげてね』 「おう、分かった」 『ねぇ、舜平さん……』 「ん?」 『……何でもない。呼んだだけ』 「え」  そんな珠生の行動がまた可愛く思えてしまい、舜平は電話ごしに赤面した。そしてごほんと咳払いすると、「何やそれ」と、素っ気なく言う。 『今、照れたろ?』 と、笑いを含んだ珠生の声が耳に響く。 「照れてへんわ。阿呆」 『あはは。……じゃあね。頑張ってね』 「ああ、お前もな」 『うん。それじゃあ』 「ああ」  しばらくして、通話が切れる。ツー、ツーという電子音を聞きながら、舜平はスマートフォンの画面を見下ろした。  珠生の声が、耳に残る。  不器用な珠生なりの励ましが、とてもとても嬉しかった。  ――俺はいつまで、あいつに縛られ続けるんやろうな……。  舜平は内心そう思いながらも、前世から続くこの甘い呪縛を、心地良く感じていることに気づいている。 「おーい! 舜平!」  遠くから、ガラガラとトランクを引っ張りながら走ってくる拓の姿が見えた。舜平も手を上げて立ち上がる。  明日からはまた、遠く離れた空の下だ。  舜平はポケットに携帯電話を仕舞いこむと、顔を上げて拓の方へと足を向けた。  続

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