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fin.結ぶもの
「……舜平さん……?」
「……あ」
突然動きを止め、無言で自分を見下ろしている舜平のことを、珠生がどことなく不安げな眼差しで見上げている。舜平ははっとした。
「……欲しいか、俺が」
「……うん……」
「ほんならもっと、欲しがってみろ。どうして欲しいんか、ちゃんと口で言うんや」
「んっ……」
そう珠生の耳元で囁きながら耳のふちをゆっくりと舐めあげてやると、珠生はぎゅっと目をつむって息を飲んだ。
珠生は何か言い返してやろうというような悔しげな表情をしていたものの、中をかき乱して欲しいという欲望には勝てないのか、しおらしく目を伏せて、一つ息を吐いた。
「……後ろから、犯して」
「……」
「俺のこと、バックで犯してよ。舜平さんじゃないとダメだって、俺の身体に教え込んで」
「……お前」
珠生はもぞりと身体を動かし、自分の上に四つ這いになっている舜平の下で身体を反転させた。舜平がつられて身を起こすと、珠生は猫のように四つ這いになって腰をよじり、片手でするすると浴衣の裾をめくり上げていく。舜平の劣情を、煽るように。
白い太ももが、闇の中に浮かび上がる。ぴったりと身体にフィットした小さめの黒いボクサーが、妙にいやらしいものに見える。珠生がそれをも自分で脱ぎ去ってしまうと、形良く締まった珠生の双丘が露わになる。
「……は」
むき出しになった肩から背中のライン、帯の絡まった細い腰、尻を突き出して気恥ずかしそうにうつむいている珠生の表情……その何もかもが途方もなく官能的だった。気を抜けばすぐにでも珠生に襲いかかってしまいそうになる自分を何とか宥めながら、舜平は珠生の内腿をするりと撫でた。
「ん……ン」
「なかなかそそる誘い方、するやん」
「……っ、あ」
舌を伸ばして背筋を舐めると、珠生は背をしならせて甘い声を出した。そして気恥ずかしそうに、こんなことを呟いた。
「すぐ、欲しい。さっき学校のトイレで、馴らしてきたんだ……」
「へぇ、学校でそんなことしてたんか? 俺とヤるために?」
「ん……ぁ、んはっ……」
下着を下げての尻の谷間をなぞりながら、舜平は珠生のペニスを扱いた。珠生は期待に打ち震えるように腰を揺らしながら、物欲しげな目つきで舜平を見上げている。
「あんな生意気なこと言ってたくせに、か?」
「……うるさいっ」
「けどお前、男なら誰でもいいんやろ? ……なぁ?」
「ちがっ……やだよ、舜平さんじゃないと、やだ……」
「ほんまか?」
「ほんと……ぁ、ア、だめ、前、触ったら……イっちゃう……っ」
珠生の声は泣き声に近い。舜平の方も、もう限界だった。
白い尻たぶを掴んで引き寄せ、切っ先を珠生の中に割り込ませる。自分で馴らしているとはいえ、そこはいつもより硬さがあり、舜平は少し息を吐いた。
「あ、ァ……っ」
「きつ……力抜け、珠生」
「ん、あ、ッ……舜平、さ……」
「お望み通り、教えてやる。……お前は、俺のものやってな」
「ンあっ……!! ん、んっ……」
そのまま一気に珠生を貫くと、珠生はひときわ高らかに啼いた。一度入ってしまえばあとは容易く、珠生の中は熱くひくつきながら舜平のペニスを思う様貪ってくる。
「あ、あっ! ン、んぅっ……あん、ん、」
「はっ……はぁっ……イイな……」
「ん、ん、ぁん、イクッ……イっちゃうよ……っ!」
「イったらいいやん……まだ、終わらへんけどな」
バックで無遠慮に腰を打ち付ける舜平の動きに連動して、珠生の細い腰がガクガクと揺さぶられる。床に突っ張っていた珠生の手から力が抜け、腰だけを突き出す格好になってしまってもなお、舜平は加減をしなかった。
「あ、ぁん、舜平、さ……ぁ、」
「一回イったくらいじゃ足りひんやろ。全然離す気ないもんな、お前のココは」
「ん、んァ、ぁぁ……っ、きもち、いいよぉ……っ」
「乱暴に犯されんのが好きなんか? いつもより食いつきがいいような気ぃすんねんけど?」
廊下に伏している珠生の両腕を無理やり掴んで上半身を引き起こすと、舜平はさらに速度を上げて珠生を穿った。しなった背中と腰の線が際立ち、挿入が深くなる。淫らな水音を燻らせる結合部を見下ろして、舜平は唇に笑みを浮かべた。
「見せてやりたいわ。エロい孔やな……こんなもん、喜んでしゃぶって」
「あ、あっ、あ、んァ、」
「もちろん中出しして欲しいんやろ? なぁ、珠生」
「ん、だして……だして……! おれの、ナカ……っ」
珠生は喘ぎ声の隙間で、うわ言のようにそんなことを訴えた。舜平の迸る体液を、珠生は嬉しそうに身体の奥で受け止め、身体を震わせてその熱さを味わっているように見えた。
その場に崩れ、倒れこむ珠生の尻からペニスを抜くと、どろりと白濁したものが珠生の内腿を伝う。珠生は肩を上下させながら舜平を振り返り、自分からふらふらと舜平にしがみついてくる。
「舜平さん……」
珠生は舜平を廊下に座らせ、その上に跨った。そして自分から、何度も何度も唇を押し付けてきた。初めての頃が懐かしくなるほどに珠生のキスは巧みで心地よく、舌を絡め合っているだけでセックスをしているような気分になってくる。
実際、舜平のペニスはすぐに臨戦態勢になっていた。珠生の尻の下で存在を主張するそれに気づいたのか、珠生は唇を離して、すっと腰を浮かせる。
「ここでもう一回か? えらい積極的やな」
「だめ……?」
「だめちゃうけど。……ん……」
「はぁ……っ……! 舜平さん……すごいよ、イイ……っ」
座り込んだ舜平の上で、珠生が自分勝手に腰を振って善がっている。舜平は息を弾ませながら、珠生の痴態に見惚れていた。
浴衣の帯はもはや役目を果たしておらず、ゆるく緩んで珠生の腰に巻きついているだけだ。すっかり割れてしまった浴衣の裾からは、珠生のそれがそそり立っている。もはや両肩はむき出しで、浴衣は肘に引っかかるだけ。そんな格好で一心不乱に腰を使う珠生の表情と、与えられる甘美な快感に、舜平は心底酔いしれていた。
「珠生……ん、はぁっ……」
「ぁ……舜平、さん……舜平さん……っ」
「ん……?」
「好き……好きだよ……、おれ……っ、舜平さんのことが……好き……っ」
「え……」
珠生は律動をやめ、舜平の凜とした瞳を真っ直ぐに見つめた。珠生の眼差しを受け止めて、舜平はしばしの間絶句してしまっていた。
「だれにも、渡したくない……。俺のことだけ、見ててよ……」
「珠生……」
「好き……ずっとずっと、好きだった。再会したときから……その前から、ずっと……」
珠生はどことなく切なげな目つきで舜平を見つめながら、訴えかけるようにそう囁いた。それは初めて聞く、珠生からの愛の告白。
じわじわと身体と心を支配するのは、確固たる幸福感だ。
目頭が熱くなるような胸のつかえを感じて、舜平はぎゅっと珠生を強く抱きしめた。
「……珠生……」
「言いたかった、でも、こんな言葉じゃ足りないような気がして、言えなくて……。でも、俺がはっきりしないから、舜平さんはいつでも遠慮がちなんだろうなって、思ってた……」
「……いや、分かってるつもりやったけど……」
「好き……なんだよ? 俺、本当に舜平さんのこと……」
「うん、分かってる。うん……あかんわ、めっちゃ嬉しい。珠生……俺の珠生……」
ぎゅううと抱きしめられ、珠生は思わず「あ……」と喘ぎを漏らした。繋がりあった身体から、直に伝わる互いの熱の高まりで、余計に感極まってしまう。
ふたりは自然と唇を重ね合い、会話をするかのように舌を絡め、互いの身体を愛撫した。自然と腰の動きが再開し、行為が一層激しくなる。舜平はそのまま珠生を廊下に押し倒し、キスをしながら、深く深く珠生を愛した。珠生もまた、舜平の腰に脚を絡めて積極的に舜平を求め、何度となく舜平の熱で絶頂した。
互いに数回吐き出した後、ふたりは額をくっつけ合って密やかな笑い声をあげた。
汗ばんだ肌を抱きしめ合い、飽きることなくキスをしながら、ふたりはしばらくの間、ぴったりと身を寄せ合って乱れた息を整えていた。
「……もう一回する?」
いたずらっぽい口調で珠生にそんなことを尋ねられ、舜平は喉の奥で低く笑った。
「シャワー浴びてからな。次はもっと、優しく抱きたい」
「……」
「浴衣もえらいことになってるし」
「あぁ……。でも大丈夫、どうせ洗うの俺だからさ」
「なるほどな。……しかし」
もはや着衣とも言い難いほどに乱れきった浴衣を搔きよせて、体液や汗に濡れた肌を隠そうとしている珠生の姿を、舜平はしげしげと見つめた。
汗をかいたせいで、耳にかかる髪の毛がしっとりと濡れている様も、ひどく色っぽく艶かしい。舜平は手を伸ばし、指先で珠生のこめかみに張り付く髪の毛を耳に引っ掛けてやった。珠生はそんな舜平のことを、美しく整った目で見つめている。
「……きれいやな、お前」
「そ、そうかな……」
「好きやで、珠生」
「っ……な、何だよいきなり」
「いきなりってこともないやろ。……言いたいから言うただけや」
「……」
赤面し、怒ったような顔をして俯く珠生のことが、可愛くて仕方がなかった。照れているのが丸わかりだ。舜平は緩みそうになる顔を何とか保ちつつ、珠生の頭に掌を置いた。
「そういう顔、めっちゃ可愛い。マジで天使やなお前」
珠生が喜ぶのではないかと思ってそんなことを言ってみると、珠生は目を上げて、生ぬるい目つきで舜平を見た。
そして、冷ややかな声でこう言った。
「いや、天使とか言われても……」
「……。すまん」
「っていうか俺、鬼だからね」
「そうやな、うん。……ってお前、冷静になった途端それかい! さっきのしおらしさはどこへ消えてん!」
「いやそんなこと言われても」
と言いつつ、珠生は自分から舜平に身を寄せて、ちゅと舜平の頬にキスをした。そして柔らかく目を細め、舜平を見つめて囁いた。
「好きだよ」
「うっ……」
「シャワー、いく?」
「……うん、せやな」
あっさり機嫌を取られてしまった舜平を見て、珠生が笑う。
それはまるで、咲き誇る桜の花のような、いろどりに満ちた明るい笑顔だった。
舜平はふと、珠生と再会したあの瞬間のことを思い出す。
咲き誇る桜の大樹。
ふたりの記憶を呼び覚ますように現れた、懐かしい千珠の姿を。
――ようやく、結んだ。
舜平は珠生の身体をしっかりとその腕の中に包み込み、この温もりをもう二度と離すまいと、改めて心に誓った。
『琥珀に眠る記憶』第四幕 ・ 終
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