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ようこそlacrimaへ

10/31の昼 「うっわ流石小山内。似合いすぎだろ」 「そういうお前こそ似合いすぎだから」 「うぇっ、お前はキツいな」 俺は高校の友人達とコスプレをしていた。 お祭り大好きな担任が、夕方から始まるパレードにクラス全員で参加しようって提案したからである。 参加者は各々好きな仮装をするのだが、俺達3人はテーマをドラ〇エにした。 最初何をしたいか聞いたら全員勇者で、それじゃあ楽しくない為それぞれ推しキャラのコスをする事にした。 ドラ〇エファンの俺達にとって一番盛り上がるキャラの話題はビアンカ・フローラ・デボラである。 昔俺はビアンカ派だったのだが、途中参戦してきたデボラがツボ過ぎて大好きになってしまった。 ツンデレありがとうございます。 滝の洞窟でのあのセリフ最高でした。 その流れで俺がデボラ、友人1・加藤がビアンカ、友人2・河野がフローラに決定した。 姉曰く俺は平凡なのだが童顔で男らしさがない為、化粧映えが良いらしい。 コスの仕上げに化粧をして貰ったら完全に女の子になってしまった。 正直元の顔が分からないレベルだ。 加藤は女顔だったので物凄く可愛らしいビアンカになっていたが、河野は野球部で鍛えられた身体付きをしている為ムキムキ過ぎて激しく似合わなかった。 だがそれもコスプレの醍醐味だ。 似合うのは目の保養になるし、似合わないのは見るだけで楽しくなる。 パレード迄まだ沢山時間がある。 時間迄俺達は皆で楽しむ事にした。 イベントスペースには沢山の出店やフォトスポットがあって賑わっていた。 写真を撮ったりグッズを買ったり焼きそばを食べたりしながら歩いていると 「何だ、アレ?」 不思議な扉が目の前に現れた。 【ご自由にお入り下さい】 扉に貼られている白い紙に書かれた文字。 気になった俺達は1人ずつ入る事にした。 加藤が入り出てくる。 「何だった?」 聞くと、大きな猫のぬいぐるみと椅子があるだけで他に何もないらしい。 なら入らなくても良いやと河野は言ったが、俺は気になったので入る事にした。 猫が大好きだからだ。 コンコン、念の為軽くノックし中に入る。 加藤の言う通り中は椅子と猫のぬいぐるみだけだった。 取り敢えず座るか。 腰を下ろした瞬間 「ん?」 突然部屋の照明が落ち、真っ暗になったと同時にプラネタリウムみたいに周囲が星が見える夜空になった。 おおっ、綺麗じゃんコレ。 入って良かった。 キラキラ輝く星空からは時々流れ星迄見える。 上機嫌になった俺は時間を忘れ瞬く星に魅入っていた。 すると聞こえた見知らぬ声。 「はじめまして」 ん、誰だ? キョロキョロするが、見えるのは星空と猫のぬいぐるみだけ。 「君の名前を教えてくれにゃいか?」 ん、まさか、猫? って、まさかなぁ。 「僕はlacrima(ラクリマ)国への案内をしている神様にゃ。性別・年齢・名前を教えて欲しいのにゃ」 にゃぁにゃぁ言ってるしやっぱり猫のぬいぐるみで間違いない様だ。 このイベ凄いな。 結構凝ってるじゃんか。 ハローウィンのイベントの1つだと信じて疑わなかった俺は素直に猫のぬいぐるみに返事をした。 「小山内柘榴(おさない ざくろ)。16で男」 その後色々された質問。 何かの占いか診断かな?星流れてるしそんな雰囲気だ。 でも変な事ばかり聞かれる。 グロいのと可愛いのではどちらが好きかとか、勇者と魔王どちら側に付きたいかとか。 取り敢えずグロいのは嫌いだから可愛い方で、勇者と魔王選ぶのは難しいから中立が良いと、聞かれる度深く考えずに答えていく。 結構沢山質問されるんだな。 まぁ星空の映像綺麗だし猫可愛いから嫌ではないけど。 どれ位時間が経ったのだろうか。 「ありがとにゃ。診断結果は後で教えるにゃぁ」 猫のぬいぐるみからお礼を言われたと同時に星空が消え、部屋に明かりが付いた。 終わりって事だろう。 椅子から立ち上がり部屋を出た。 かなり長い時間話していた筈なのに 「どうだった?」 どうやら実際は数分しか経ってなかったらしい。 中の時間と外の時間が違うとかほんっと凄いなこのアトラクション。 「プラネタリウムみたいでスッゴイ綺麗だった」 笑顔で言うと 「え、俺の時と違う」 加藤は首を捻った。 もしかしたら飽きさせない様に何パターンかあるのかもしれない。 唯のハローウィンイベなのに凝りすぎだ。 食べ物美味しいし、楽しいから来年もまた来よう。 楽しい時間はあっという間で、パレードの時間になり俺達は皆でバカ騒ぎながら参加した。 つっかれたぁ。 帰宅するなり入浴し、部屋に直行した。 テンション上がってはしゃぎすぎた。 物凄い疲労感に目を閉じ布団にポスン身を委ねた時だった。 「え?」 突然部屋の照明が落ち、星空の映像が見えた。 何コレ、凄いデジャブ。 驚いて瞬きをすると 「こんばんにゃ」 先程のイベで聞いた猫のぬいぐるみの声がした。 が、其所に居たのはぬいぐるみではなくリアルにゃんこだった。 透き通ったブルーの瞳を持つ黒いシャム猫。 有り得ない位綺麗で可愛い。 何この子。飼いたい。 声は一緒だが、ぬいぐるみではなく黒猫。 まさかこの子も作り物? だったら日本の技術凄いな。 リアル過ぎて本物にしか見えない。 「毎年1年に1回ハローウィンの日に僕は移住者の選別に地球に来るんだ」 どうやらこの猫は此処とは違う世界ラクリマ(lacrima)から来たらしい。 其所はまるでRPGの様な世界で、勇者や魔王やモンスター等が存在し、魔法も使える。 遥か昔地球から流れ着いた人が流行らせたインフルエンザのせいで一度人口が3分の1以下に陥り、その時に女性が滅んだ。 インフルエンザ怖いな。 それを境に人口を増やす為地球から移住者を選別し召喚を始めたのだが、この世界の男性と地球の女性の遺伝子は合わないらしい。 なかなか受精しない上に妊娠しても流産が多い。 尚且つ漸く産まれても1年位しか生きられない上に、女性自身も空気が合わないらしく体調を崩す。 で、新たに神様が考えたのは魔法による生命の創造。 教会に子供が欲しい人が行き、特殊な魔法を掛けてもらう。 魔法を掛けられた2人はその日の内に性行為をし、愛の結晶として魔石を生み出す。 魔石は2人の愛情がある時のみ誕生する。 少しでも愛情が足りないと誕生しないし、もし中途半端に誕生しても新たな命は育まれない唯の石ころになってしまう。 魔石誕生の後は再び教会に行き、魔石から命を創造する。 そうして子供が出来る。 2人目が欲しい時もやはり同じ様に教会に赴かなければならない。 それって教会に今からHします、してきましたって報告してる様なものだよな。 スッゲェ恥ずかしくね? 因みに地球からの召喚は1年に1度ハローウィンの日のみ。 その日しか地球とのゲートが開かない。 規制なく完全に自由に行き来出来るのは神様のみなので、神様が単独で地球に行き、選別して新たな住人を召喚している。 ゲートは何処に開くかは決まっていない。 今回は偶然日本の俺達の地域に開いた。 選別は軽い面接だが、ここ数年適合者が全く現れなかった為俺は約20年振りの移住者らしい。 凄いな俺。 でもコレって運が良いのか悪いのかドッチだ? 地球から召喚といっても別に何かしらの使命があるワケではない。 lacrimaには既に勇者も魔王も王様も存在しているからだ。 なら何をすれば良いのか。 それは自由に過ごして良いってヤツだ。 勇者の仲間になるのも良し。魔王に加担するのも良し。何もせずにダラダラするのも良し。 だが1つだけ神様曰く、誰かしらの子供を作って欲しいらしい。 まぁ、別にソレは嫌じゃない。 元の世界に戻れずこの世界で生きるなら、いつかは誰かを好きになるだろう。 そしたら必然的に結婚したいし、子供も欲しくなると思う。 召喚する特典として何点かチート能力を授けて貰えるらしく、俺は言語自由変換を頼んだ。 言葉が分からないと生きていくのに不便だからだ。 神様によって他にMP∞・安産が付与された。 因みにMP∞とは幾ら魔法を使ってもMPが無くならない事で、安産とはHの時に痛くない上に子供が出来やすい能力らしい。 痛くないってつまりソレって俺が女役決定って事か? いやソレは多分まだ先の事だから考えないでおこう。 MP∞設定だが、召喚時や誕生時は全員例外なくレベル1から始まるのでレベルが上がる迄魔法は使えても魔力は弱いらしい。 なので魔力を上げるには地道にレベルを上げるしかない様だ。 まぁ、別に勇者とか何かしらの使命があるワケじゃないし、レベルはゆっくり上げれば良いか。 ゲームと同じ様にたまに選択肢が現れる事があるらしいが、その時ははい・いいえで答える位だし別に難しい事はなさそうだ。 因みに永住決定だが里帰りは許されているらしいので二度と日本に戻れなくなる事は無い。 でも一々神様に頼まなきゃいけない上に行き来がハローウィンの日限定ってのが何とも言えないが。 名前は柘榴だが、lacrima風にグラナート(granato)に変換された。 正直覚えれるか不安だ。 lacrimaでは魔力に比例して魅力が上がる。 なのでレベルや魔力が低いウチは皆平凡で、レベルアップして魔力が上がるに連れて容姿が美しくなる。 って事は見た目で魔力やレベルが分かるのか。 美形イコール強い奴なんだな。分かりやすい。 「色々説明したけれど余り一気に言うと覚え切れないだろうから、知りたい事があったら本を読んでね」 渡されたのは有り得ない位分厚い攻略本。 見た目の割に紙切れ並に軽いのはありがたいが、大き過ぎて邪魔。 と思っていたらアイテムボックスをくれた。 ソレは目には見えないが、念じるだけで収納も取り出しも出来る。 ボックスの中は時間が遮断されている異空間なので食べ物を入れても腐らないしそのまま鮮度を維持出来る。 尚且つ幾らでも収納出来るし、中で入れた物が混ざる心配も無いらしい。 流石神様からのプレゼント。 有能過ぎ。 「アンケートの時グロいのは苦手で可愛らしい方が好きと聞いたから、モンスターの仕様は君が存在する空間ののみ幼児向けにデフォルメしてあげるね。幼児向けだから切り刻んでも血肉飛び散らないから不快な思いはしなくて済むと思うよ。あっ、でも見た目以外は強さ変わらないから外見で油断して倒されない様に気を付けて」 俺の居る空間のみグロを消去してくれたのは物凄く嬉しいが、仕様のせいでモンスターの強さが見た目から判断出来なくなってしまったのはこれから先キツいかもしれない。 でもまぁ別に俺闘う必要性ないし、モンスターに逢わない様に過ごせば大丈夫だろう。 「粗方の説明は終わったから、今から君をlacrimaに移すよ」 途中から気が付いたのだが、いつの間にか神様はにゃぁにゃぁ言わなくなっていた。 可愛かったのに残念だ。 ガッカリしながら神様を見ると意志が通じたらしく 「Fightだにゃ」 可愛らしく鳴きながら応援してくれた。 うん、可愛い。 なんか俺頑張れそうな気がする。 って、単純過ぎだろ俺。 目の前に現れたどこでもドアみたいな扉。 ドアノブに手を掛ける。 ガチャリ開けると 「ようこそlacrimaへ」 其所は普通の部屋だった。

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