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日常的な
「ラク居る?」
「居ねぇ」
手元から目を離さず、ラクはぞんざいに言い放った。
彼が部屋を訪れる前から徐々に強くなってくる臭気に、顔を上げたら負けだと己に言い聞かせる。
比較的鼻の良い自分はいの一番に逃げ出したかったが如何せん今手を放すと、六時間の作業が全てパア。
ちなみに、現在施設の外回りは罰ゲームで科せられた憐れな敗北者が奮闘中のハズ。生きていれば、の話であるが。この時間になってもヤツが自分の元に現れないということは、手が離せないもしくはすでに肉片となっているか。果てしなく後者である可能性が高い。
「お腹減ったと思って、持ってきたよ」
「要らねぇ」
仮にあったとしても、食欲はむしろ減退。
壊滅的に下手くそな、料理と分類するにもおこがましいほどのもと食材を片手に訪れた、組織内でも随一と謳われる暗殺者を素気無(すげな)く振る。
「えー、一緒に食べようよ」
「おーやおや、かわいい子たちは仲いいな」
尚も食い下がる傍迷惑な誘いに被せられるようにして低い声が響く。
千客万来。
いらねぇのに。
施設内部の端の端、数多にある武器庫の一つの裏側に位置するラクの部屋は、存在自体知られていないほどなのだが。
「失せろ」
舌打ちと共に顰めた顔に非難が上がる。
「口が過ぎるんじゃねえか?」
「知るかよ、ロリコン」
「ラク、この場合ショタコンだよ」
「ぁあ?」
「男の子でしょ、ラクは」
要らぬ合いの手をした己とそれほど変わらない身長の暗殺者を見上げ、不機嫌丸出しで目を眇める。
「お前もだろ、イチ」
「どっちも、守備範囲内だ」
「失せろ、カス」
声高に宣言した迷惑極まりない侵入者に、ラクはピシャリと撥(は)ね付ける。
「あ、」
「「ん?」」
最後の仕上げが終わった途端漏らした声は、六時間の作業ののちに動き出した兵器との格闘の開幕ゴングとなった。
バチバチバチバチ。
「ね、ラク」
「ぁあ?」
バチバチバチバチバチバチバチバチ。
「コレ、いつになったら終わる?」
「あぁ、武器庫に引火したから長引いてンだろ」
たぶん。
視線を放り投げれば、同時に壁向こうからド派手な爆音を拾う。
「侵入者かと勘違いされない?」
「ねぇだろ」
以前も似たような騒ぎを起こして武器庫三つを廃棄にしたが、お咎(とが)めなしだった。今回は一つ。問題は無い。
それに、本当に奇襲だったとしても血の気の多い輩ばかりの組織だ。我先にと獲物を手に取り、侵入者狩りにそれぞれ嬉々として向かうだろう。
まぁ、さっき二十一人目のギャラリーが肉片と化して床に散らばっているが。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ。
「あの人、無事に逃げれた?」
「ぁあ? 俺とお前がまだ居て、あのブタが逃げ遂せるか。あそこでミンチんなってやがる」
「あーぁ」
片付けが面倒だ。ブタはブタでも、人肉の掃除屋は居ないものかと思考を巡らせ、行き着いた全身ショッキングピンクの人物に吐き気を催す。
対戦車用のトラップが縦横無尽に作動し続ける中、全てを掻い潜りながらラクとイチは変わらず軽口を叩いていた。
「ラク、コレ実践で使うの?」
「ムリだな。バズーカぶっ放した方が手っ取り早い」
ただ、単発単射式で面倒くさいが。
今回気まぐれに手を加えた他国の兵器は威力と持続力はある程度あるが、如何せん設定に時間が掛かりすぎる。その作業時間ならば、このイかれた組織の有能な殺戮者数名を派遣すれば、一国などある程度簡単に落ちる。ただ相性というものがあるため、下手をすると壊滅させた場所でいつの間にか身内同士で死闘を繰り広げかねないという危惧はある。しかも切っ掛けは、「そういえばお前の髪型いつも変だな」「ぁあ?死ねよ、カスが」などという、かなりどうでもいい些末な事で。
バカばかりだ。
半目になったラクは若干回転速度の落ちてきた機械を蹴り飛ばして、仕込んだチップを弾き出した。
「終わった?」
「これからが本番だ」
オリジナル第二弾のカラクリが動き出したのを確認し、あと半日は外回りができないことにラクは嘆息した。
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