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一方通行な
「ぁあ? クタバレ、カスが」
嫌悪も顕(あらわ)にラクは吐き捨てた。
「そぉんなトコロもソソるねぇ」
片手でラクの進行方向を阻み、ムダに高い身長を駆使して覆いかぶさるようにして己に長い舌を見せる男をヒタリと見据える。
「いっつも澄ましてやがるクソ生意気なてめぇの泣き顔なんざぁ、極上だろぅよ。泣き叫ぶまで犯しまくって、最後に切り刻んでやるよ。たぁのしぃなぁ?」
ヘビのように二つに割れた舌をチロチロとさせ、ギョロリとさせる目は濁っている。微かに漂う臭いも相俟ってラクは悟った。
クスリ、か。
ピチョン。
暗く長い廊下には己としゃがれた声の男の会話、そしてどこからか滴り落ちる水音がやけに大きく響く。
いいと言うのに引き摺られ手当てされた頬に無遠慮に触れようとする汚い掌を叩き落して、幼い顔に不似合いな不敵な笑みを浮かべる。
「生憎、付き合ってやるほどのヒマもココロも広くねぇ。てめぇの右手とでも仲良くしてな」
もしくは妄想の中で朽ち果てろ。
「つれねぇなぁ? この俺様がご所望だ。ツンデレってぇヤツも過ぎるとカワイくないぜ」
「──めでたいな」
冷めた眼をして口角を上げるラクに、訝しがった男は次の瞬間悲鳴を上げた。
「腕一本で、汚ねぇ声上げンじゃねぇ──クスリよりいいユメ見られるかも、だぜ? 精々楽しみな」
先ほど産廃にした赤黒い節足動物を模したモノに装着されていた薬物。微かな臭いと性状で粗方作用の検討はついているものの、自室に戻って詳しく調べようとしていたところに思わぬ被験者が現れてくれた。
すでに回っているクスリの作用によって、一般人よりは出方に若干の違いはあるだろうが。
しばらく男の状態を観察していたラクは興味ない。底辺であるはずの雑用の一人が殺戮集団の組織内でかなりの手練れであるとの噂が、真しやかに流れていることを。
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