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第12話
これは…
これはキスだ。しかも唇に…唇にだぞ!ちょっと触れるキス…。え?なんでキス?しかも…鈴木っ、唇…や、柔らかかった…って、おいおいおい何考えてんだ…俺は男!お、おとこおおおぉぉぉ!
「…えぇっ、ななな、なんで?俺…男っ…。」
鈴木ははバツが悪そうに唇を噛み締めていた。視線を僕から外して戸惑っている。
「ごめ…その…渡辺くん、帰って…ごめん帰って…タクシー呼ぶから、…本当…ごめんね。」
と言って力無い笑顔を俺に向けて携帯を持って部屋からすぐに出ていってしまった…。なんか、今にも泣きそうな顔して。
どういう事だ?待ってくれ…なんで…なんでキス。キスは好きなやつとするもん…だけど、俺が好きなのか!?ちょっ、待ってくれ!!自分で言って笑えてくるんだが!!自惚れてるんじゃなくてっ!や、なんでほんとに…なんで俺に?
しばらく俺はボーっとしてて、ドアごしに「タクシー下に来たから…」と鈴木の声がした。荷物を雑にカバンに突っ込んでドアを開けてみると、そこには誰もいなくて…。
「…鈴木?なぁ、鈴木?その…か、帰るね。あっ、あの、ご飯ご馳走様。」
とりあえず勝手に帰るのも失礼だし…声を掛けてみたけど返事がない。
下へ降りるとタクシーがハザードを付け止まっていた。
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