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最終話「グッバイ、ハロー」

   二人きりにしてくれないか。  そう言って、クレイヴは小さな家の中に消えた。  瀕死の、〝怪物〟と呼ばれた青年を抱いて。  すげぇ量の血だった。こんな雪山じゃ、救助も輸血も間に合わねえか。  仮に助かったとしても、〝狩人〟と〝怪物〟は共存出来ねえ。どんなに綺麗な愛の物語だとしても、犠牲者がいる限り、世間様が許してくれねえよ。  これから起こる大水害については、説明を受けた。町の奴らを高台に避難させるよう、連絡はしておいた。俺たちも直ぐに逃げるつもりだ。  レイチェルは、終始無言で俯いていた。そりゃあそうだ。知らなかったとはいえ、とんでもないことをしでかしちまったんだからな。  まあ、それを責めるつもりはねぇよ。    ……アヤト。お前はここに残るんだな。  そうか。わかった。    ああ、ったく。  どうして〝怪物〟なんかを愛しちまったんだ。  ***  テーブルに並んだ料理はすっかり冷めていた。  消えた暖炉に火を起こし、コトリの身体を横たえる。  すまなかった、と何度も謝った。手に握った、くしゃくしゃの手折れた花を渡すと、コトリは弱々しく微笑んだ。「嬉しい」と、小さく口にした。 「スノーホワイト……これを探しに?」 「……ああ。〝クレイヴ〟は怪物狩りの仮名だよ。アヤトが本名。これを知っているのは、レイチェルとグレンだけなんだ」 「そうでしたか」 「まあ、名前なんてどうでもいい。そんなものは呼称に過ぎない」 「記憶が戻ったんですね。……良かった」  コトリが、手を伸ばす。アヤトがそれを、優しく両手で握った。 「ああ。お前のことも、忘れていないよ」  やっぱり、冷たい。細い身体を抱きしめる。 「泣かないで、アヤトくん。……新しい本、一緒に読みましょう」  頷いて答える。言葉を吐き出そうとすると、涙があふれてとまらなかった。  今日は、このまま寄り添って眠ろう。    ***  朝がきて、少年は目を覚ましました。隣で眠る恋人は、まだ夢の中。  そっとキスをして窓を開けると、そこには黄色い蒲公英の花畑が広がっていました。  周囲には、空を写した青い海。ここは山頂だったはずなのに、まるで、ぽっかりと浮かんだ島のようです。  彼がこの光景を目にしたら、きっと驚くことでしょう。 「春がきたよ。二度目の、春だ」  そう語りかけると、  少年は恋人の亡骸を抱きしめて、  大声で泣きました。  ここももう直ぐ、水の中に沈む。  一緒に逝こう、と。  *** ──「うん、いい話だね。それで?」 「それで? って言われましても」 「それさあ、今日カフェで初めて会った相手にする話?」 「だって、何か」 「ん?」 「運命のような気がして」 「は?」 「この本、頂いても?」 「べつに、いいけど……」 「ありがとうございます! お礼に聴いて下さい! 僕の歌!」 「ちょ、ちょっと! こんな公共の場で歌いださないで!」 「いきますよ! すぅー……」  それは、異国の言葉で紡がれる、優しい歌。  来世で、再び二人を繋ぐ──。 END  

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