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第1話
外からは体育祭の応援団の(有志なので人数はあまり多くないが)活気溢れる声、廊下からは同級生たちのわいわいと楽しそうな話し声。さすがに遠くて音は聞こえないが体育館の開かれた扉から見えるバスケットボール部。
あー、青春してるな。
なんて他人事みたいに思えるくらいに俺は何もしていない、じゃあ何で帰らないんだ、そう思うだろう、俺もそう思う。今、俺は帰らないんじゃない、帰れないんだ。
窓際の一番後ろの教室内で一番羨ましがられるこの場所が俺の席、そのひとつ前の席の椅子の背もたれに手をかけて向かい合わせになるように座り楽しそうにじっと見つめてくる、このチビのせいで。
「ねえ、そろそろ良い時間なんだけど」
長い間続いてた沈黙を破ったのは向こうだった。
知らない、無愛想にそう答えては窓の外の青春軍団に目をやった。
カシャッ
「え…」
「うん、やっぱりいいね綺麗だ」
そいつはいつの間にか手に持っていたカメラのモニターを確認して、嬉しそうにそう言った。
「なに、いま撮ってんの」
「え…いや、だって、先週言ったじゃんか。被写体になって~~って」
「…………」
え、忘れたの?とショックを受けた、みたいな顔をして聞いてきたそいつ。べつに忘れてなかったけど。
「じゃあ…もっかい言おうか?
指田 隆 くん、僕の写真のモデルになってください。」
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