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第2話

 先週の木曜日、部活にも所属してなくバイトもしてない、特に用事のない俺はその日もすぐに帰ろうかと席を立った 「ねえ」 突然声をかけられ振り返るとそこにはあまり喋った事がない(いや、一回もないかもしれない)男が立っていた。 「…なに」 鞄を持ち上げようとしていた手を止めてそいつの方に向き直す。 「あー、えっと、お願いがあるんだけど」 「なに?すぐ終わる?」 「うーん、今じゃなくて、すぐにも終わらないんだけど」 えっとねー…と歯切れが悪い言葉をポツポツと溢し足元をキョロキョロと見ているそいつを見て、そんなに難しいこと頼もうとしてるのか、と思い 「俺そんなに器用じゃないから細かい作業とか無理だけど」 そういうと「あ!違う!指田くんは何もしなくてもいいの!」とわけのわからないことを言う。お願いがあるって言ってたのに。 じゃあなに?と急かしてみる。 俯きながらフウ、と小さく息を吐くとそいつは俺の方に向き直った。 「指田くん、僕に写真を撮らせてくれない?」 「…え、なんで」 「撮りたいって思ったから」 「意味わかんない」 「お願い!」 「…写真嫌いなんだけど、だから無理」 「そこをなんとか!俺ね、指田くんじゃなきゃ駄目!」 よくそんな恥ずかしいことを言えるな、と思う。むしろ俺が恥ずかしいわ。 ふいに相手の顔を見てみると、そいつは少し緊張したような顔でじっと俺を見つめていた。 「…」 「指田くん…?」 「いつ」 「え」 「だから、いつ、一回くらいなら…べつに」 「ほんとに!うわあ嬉しい!」 そういうとそいつは正面から飛び付いてきた。 読んで字の如く、飛び付いてきた。 身長がさほど変わらない野郎に急に飛び付かれたら、さすがに、所々痛い。それにバランスっ… 「うっ…わ!」 「えっ…」 そのまま倒れそうになったのを抱き止められた 「ごめんね、つい嬉しくて」 えへへ、と笑うそいつをじっと見る 「あ、そっか、自己紹介まだだっけ。同じクラスの高野 愛翔(たかの まなと)。俺ね、写真部なの、知ってた?知らないよね、これからよろしくね、指田 隆くん!」 「高野…いやそうじゃなくて」 「え?なんで指田くんの名前覚えてたか?それはね」 「…離してくんない」 「あ、ごめん」 至近距離で自己紹介されてたこの状態、周りから見たらどんな感じなんだろう… ていうか気づいたら教室や廊下に大勢居た生徒もほとんど居なくて、運動部と応援団の声だけが響いてた。 「えっとそれで、いつ」 ああ、忘れてた、という顔をしている高野。 「じゃあ、来週。来週の金曜日。」 「…わかった、じゃあ」 そう言うと俺は鞄を持って教室を出た。

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