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第3話
小春の車に乗りこみ事務所へ向かう、ふとこちらを向くそいつを見る
「なに?」
「…お前臭いな」
「あ゛?風呂はいってんだけど」
そういう意味じゃない、と溜息をつかれた。
なんなんだよこいつ、そういう意味じゃないってどういう意味だ?
「昨日もなんかしてただろ。つか匂いが変わった」
匂い?
「匂い…ぁー…なんか昨日のオッサンに香水もらったからなんとなく付けただけだ」
そんなに臭いか?と体を嗅いでみた、ちょっと甘い匂いがするだけでそんな臭いとは思わなかった
「お前な,仕事の前は身体交えんなっつってんだろ」
アホが、と額を思いっきり叩かれた
「いってぇな…いやでも別に入れられてねぇし。というか、そのおっさんアイドルの方の俺のファンでさぁー、俺似てるとかなんとか、まぁ、本人なんだけどな?」
耐えきれずケラケラと笑ってしまう、ほんとに、似てるんだと言うだけでケロッと騙される、単純だよなぁ?
「……。ほら、ついたそ」
「ほーい」
────────…
「ぉー、トアじゃないか、今日は時間通りだな」
「ちょっ、柊さん髪崩れるってー」
わしゃわしゃとその大きな手で俺の頭を乱暴に撫で豪快に笑うこの人は辻井 柊(つじい ひいらぎ)。この事務所の社長で見た目は強面に関わらず信頼があつく優しい内面のおかげでモテモテだ。父親って感じ。そう、理想の…
「社長、そいつ今から撮影なんでほんとに」
小春のその言葉にすまん、と少し申し訳なさげに手を離す柊さん、まぁ、これが結構日常だったりする。
でもそれはこのメンバーの時だけ。
ガチャ、とスタッフがはいってきた。
「失礼しますね、トアくんの撮影少し延長したらしく、30分後です」
ふわりと表上の笑顔を作る
「はーい。えっと、井上さんでしたよね?いつもありがとうございます」
「んふふっ、頑張ってね!」
スタッフの言葉を耳に軽く手を振り自身の控え室へと向かう
そう、俺が素顔を見せるのは柊さんと小春の前だけ。それ以外は仕事中ずっと仮面をかぶる
まぁ、どこから情報が漏れるかわからないしね
いつの間にか、この顔に慣れてしまって、もうこれが日常。
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