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第6話

要人用結界完備の馬車での移動中。  呪術師は男を抱えたまま事のあらましを説明した。  全ての呪術師には捜査協力義務がある事。  男に黙って淫魔捜査の囮にしたこと。  尾行中守りきれずに見失った事。  淫魔が封印具を解いた事で皮肉にも場所を特定できたこと。 男は未だ中和されきれない媚薬に熱っぽい表情のまま、頷くこともなく黙って聞いていた。 呪術師は男を抱きしめたまま。焦りと共に、諦めを覚え始める。 (何処の世界に恋人を、公の仕事とは言え囮に使う人間が居るってんだ。しかも守りきれず、危険にさらして、とんだクズだ。) そこで自分が男の前でだけはクズである事を隠したかった事に気づく。 (今までどんな汚い仕事も割り切ってたじゃないか。大事な人が出来たからってその人の前でだけ善人ぶりたいだなんて、都合が良すぎる) 分かっている。 でもハラワタが凍りつくように冷たい。 腕の中の温もりに拒絶されるのが恐ろしく、震えを抑えるのがやっとだった。 程なくして宿に到着した。 男は自分で歩こうとしたが、薬の影響で腰が立たず結局部屋まで呪術師が運んだ。 幸い時間的に人通りは無い。 部屋について、男をベッドに降ろしてから四隅をチラッと確認する。 指定していた通りの結界札が貼られている事に安堵した。 これでこの部屋は魔術的に外から完全に断絶している事になる。 男の魔力由来フェロモンを外へ漏らさない部屋。 念のため用意させていたが、正解だったなと呪術師は思う。 男は何を考えているのか、熱っぽい目をぼんやりさせたまま何も言わない。 よほど怒っているのだろう、それも仕方がないことだ。だがこのままという訳にはいかない。 「……身体を少し診せてもらいますぜ」 呪術師がそっと男の肩に触れると、一度ビクリと反応してから、ゆっくり頷いた。 (本当は俺なんかに触られるのも嫌なんだろうにねえ。申し訳ねえが堪えておくれよ) 毛布を剥いで、ローブを取り去ると、濃厚なフェロモンが溢れ出てくる。抗体持ちの呪術師でも多少ふらつきそうになる代物だ。 薬の所為でボーっとする男の目がとろんと艶っぽくて思わず喉が鳴る。 アグラディアによれば今回盛られた媚薬は即効性があるが覚めるのも早いものだ。この様子ならこのままで大丈夫だろう。 甘い香りと媚態に揺れる理性を叱咤して、検診を始める。 顔、腹、脚、背中 見て解る範囲に大きな傷はない。ただ彼方此方にキスマークが残っているのが腹立たしい。 「どこか痛む場所は?」 黙って首を振る男。 封印具はあらかた取り去られていたが、後孔に仕込んでいた物だけ残っているのにほっとする。 手のひらを腹に当てて探っても、使い魔が潜んでいる気配はない。 前回淫紋をつけられた場所にも何もなかった。 淫魔は一度目をつけた獲物への執着が強い。そして淫紋をつける場所にも拘りがあるのが普通だ。ここになければとりあえず安心だろう。 二度目の解呪は一度目より過酷になる。呪術師は内心でため息をついた。 すると、その時男が言った。 「ごめんなさい」 何についての謝罪なのか呪術師にはわからない。 「何を謝ってるんで?」 びくっと男の肩が跳ねる。 一度唇を噛み、俯く。 大きな体を小さく丸める。  「……先生、やっぱり、おれのこと、もういらなくなった?」  「……ん?」 (なんでそうなる?!)  男は続ける。  「知らないヤツにノコノコついて行って、迷惑かけて……おれ、ホント駄目だ……でも、先生の側に居たいんだ………何も聞かないし………好かれて無くてもいいから……なんでもするから……」  「待ちなせえ」  「おれ、馬鹿だから、先生に頼ってもらえないのも仕方ないけど、でも頑張るから!」  「待てって言ってんですよ!どうしてそうなるんです?」  「だって……!」  「俺は旦那を囮にして、その上守りきれなかったんですよ?馬車で話したでしょう?ぶっ殺されても文句は言えねえ。捨てられるとしたら俺の方だ」  「おれが先生を捨てる?そんな事あるわけない!大体、先生はおれのワガママで一緒にいてくれてたのに」  「待って待って。なんだかおかしいね。どういう事です?俺と旦那は相愛で付き合ってるんでしょう?」  「でも」  「ん?」  目で促す呪術師に、言い難そうに男が続ける。  「……診療所でずっと一緒にいるけど、先生、態度がそっけないし……」  ちらり、と顔を伺われて呪術師が目を見開く。  普段ならなんとでも誤魔化したい所だったが、ここで嘘をつく訳にはいかない。顔を手のひらで半分覆いながら白状した。  「……旦那が可愛くて、堪えるのに必死なんですよ。アホみたいに浮かれてるのがバレたくなかったんでさぁ。急にベタベタして嫌われないか、その、心配で……」  「……朝、目が覚めるとベッドから居なくなってるし……」  「……旦那と一緒に居ると、際限なくやり続けそうになっちまうから……!旦那が一々可愛く煽ってくるもんで、一緒のベッドに居たら堪えきれねえんです!」  珍しく真っ赤になって、恥ずかしさに今にも沈没しそうな呪術師。   「嫌いじゃない、とは言ってもらえたけど、好きとか、あ、愛してるとか、言ってくれない……」  ずびっと男が鼻を啜った。  ハッとして、呪術師が心底申し訳なさそうに謝る。  「……すみません。そいつは俺が悪い。旦那に一方的に甘えすぎてたんだ。本当にすまねえ」  呪術師は真剣な顔で、ベッドに腰掛ける男の頭を正面から抱きしめる。  両腕で閉じ込めながら、涙で溶ける瞼にキスをした。  「愛しています。とても、とても」  額に、鼻梁に、頬に、今までしたことのない羽毛のようなキスを落とす。  「俺から旦那を捨てることなんか絶対ありやせん」  「先生……」  「でも、俺は自他ともに認めるクズです。どうせ淫魔からも聞いたでしょう?彼奴等は後ろ暗い俺を山ほど知ってる。だから、アンタが逃げるならこれが最後のチャンスだ」  涙が伝う頬を親指でなぞり、淋しげな顔で囁く。  「俺は執着が強い。嫉妬も人一倍だ。一度食いついたら離せなくなるから、今までそういう相手を殆ど作ってこなかった。その上、仕事には後ろ暗い所が山盛りある。旦那が、やっぱり無理だって言うのも」  そこで、男の大きな手のひらが呪術師の小造な頭をがしっと掴んで唇に食いついた。  大きな口で呪術師の薄い唇を食み、ちゅうっと音を立てて吸い上げる。  角度を替えて二度三度、上がる吐息を堪える。  「んっ、いい加減わかれよ……。おれは、先生が好きだってずっと言ってるだろ!先生がおれの事好きじゃなくても、拷問官でも、魔王でも、もうなんでも良いくらい駄目になっちまったんだよぉ」  くしゃ、と泣き顔が歪む。  「おれ、アンタの事考えても考えなくても苦しいよ。こんなの初めてなんだ。先生にしか助けられない。……助けて、せんせぇ」  濡れた唇が苦しげな吐息を吐く。  薄明かりの中、全身で愛を乞う男を気づけば呪術師はベッドに押し付けていた。  くちゅくちゅと水音が響く。  一日中後孔に嵌められていた連なるボール状の封印具はとっくに外されて床に転がっていた。  すっかり解け、媚薬と、淫魔に嬲られてきた男の肉体が呪術師の指が動く度に若魚のように跳ねる。  「あぁっ先生、もう、いいからぁ」  「そうも行かねえよ旦那。クソ淫魔に触られたとこ全部上書きしねえと俺の気がすまねえ」  蕾から長い指を引き抜いて、男の太い鎖骨を甘噛する。  「あぁんっ」  「さぁて、何処を触られた?正直に白状しな」  「うぅ、耳と……」  呪術師の舌が耳孔に差し込まれる。ダイレクトに粘着質な音が男の中に響いて腰にじーんとした痺れが落ちる。  「ああぁんっ……あと、チンコ、とぉ」  呪術師のほっそりした指が蜘蛛のように男の茎を絡め取った。裏筋を指の腹でこそいで、亀頭の天辺を親指でぐりぐりいびる。  腰をくねらせ逃れようとするのを細腕とは思えない膂力で捕まえて、次第に亀頭から透明な淫蜜が垂れてきた。手のひらにたっぷり塗りつけて、しかし達するには足りない微妙な加減で弄ぶ。  「すっかりカチカチだねえ。でも、旦那、ここだけじゃ足りねえでしょう?それで?後はどこを触られた?」  物足りなさに身悶えする男が、叫ぶ。  「あぅっ。胸ぇ!」  胸を反らして哀願する。  ここ数週間で男の其処はすっかり紅く育ち、胸全体もいくらかふっくら成長していた。  呪術師が慣れた手つきで男の胸全体を、まふっと鷲掴みにする。  「ンっ」  パン生地のような弾力性に指が沈む。左右に細かく振ってやると、柔らかな筋肉がフルフルと震えた。  なんて美味そうなんだろう。呪術師が舌なめずりをする。  だが肝心の中心には触ってやらない。  ここは焦らしたほうが甘みが増すのをよく知っていた。  だが、焦らされる方は堪ったものではない。  「せっ、せんせぇ、早くいじってぇ!」  「どこを弄って欲しいんです?」  ねっとりと胸の輪郭をなぞり、その大きさを堪能する。筋肉だけではなく、そこには薄く脂肪が乗り始めていて、舌先に甘い感触が伝わってくる。いっそのことこのまま食ってしまいたくて、軽く犬歯を突き立てた。  「ひぐっ!そこじゃなぃっ。ちがうのぉ、せんせぇっ」  「おっとすまねえなあ。旦那は何処を虐めて欲しいんだい?俺にもわかるように、ちゃあんと教えとくれ?」  ことさら優しい猫なで声。  柔らかな、腰に来る低音に男の背筋に快楽の波がゾワリと走る。  「……ち、ちくび……触ってぇ」  小さい小さい声で、男が呟く。唇は震え、その頬がまるで少女のように染められているのを見下ろし、呪術師は自身がさらに硬くそそり立つのを感じた。  「ええ?聞こえねえなあ?ここかい旦那?」  乳輪のすぐとなりをワザと抓り上げる。  「ぁああっ、違う!ちがうよぉ!」  「旦那がはっきり言わねえなら、もう胸はやめておこうか?」  低い声が、意地悪そうにクククと響く。  男は半泣きで訴える。  「ち、乳首、乳首だよぉ」  震え声に答えるように呪術師が男の胸の果実を「くん」とつまみ上げる。  「あぁんっそこぉっ!」  ようやく望んだ場所を構ってもらえて一瞬男の表情が緩む。  だが呪術師はワザと指の力を抜いて、触れるか触れないかの刺激しか与えようとはしない。  「はぁっ、もうっ、また意地悪ぅ、ああっ」  時折思い出したように敏感な乳首先端に息を吹きかける。  「どうしやした旦那?乳首、いじってますぜ?もっと、どうして欲しいんです?」  くっと苦しげに息を呑んでから、甘い刺激に耐えかねた男が悲鳴を上げる。  「もっとぉ!もっと乳首強くしてぇ!いっぱい虐めてぇ!!ああぁ!」  男にせがまれ満足そうに、呪術師は右の乳首に吸い付いて歯を立てた。  よくできましたの意味を込めて、反対側の乳首も一緒に責める。  口内で転がしては歯の先端でこりこり挟み、乳輪を舐め回しては全体を強く吸い上げた。  反対の方も絶え間なくぴんぴん弾き、周囲をくるくると焦らしては先端をトントンと叩いてあやしてやる。  「ああぁ、せんせ、ひぃっ!ちくび、おかしくなっちゃうぅ!」  ガクガクと難度も痙攣が繰り返され、雌イキを繰り返す。  収まる直前に再び強く乳首に噛みつかれて、また雌イキ。  男が跳ねる度に男の逞しい男根がブルブルと揺れるが、そこから精液が噴出する様子はない。ただ透明な蜜がだらしなく延々と漏れ続ける。  「ああぁっ!あン!ああっ!!」  「おっぱいでイケるようになってきやしたねえ。イイ子だ」  唾液で光る唇でニンマリ満足げな顔を浮かべる呪術師。  そうしている間にも指の間に男の乳首を挟んでこりこりと手放さない。  快楽の波に喘ぎ続ける男を見下ろしたまま、呪術師は反対の手を後孔に再び伸ばした。  そこは十分に解けていて容易に三本を飲み込む。  だが差し込めばいじらしくキュウキュウとしがみつき、内側はフンワリと熱く蕩けそうだ。  「ひぁっ、そこはぁっ」  「わかってますよ、ここは無事でしたよね。よく頑張りました」  額にちゅっとキスを落とす。  数時間前淫魔に犯されそうになったが、辛くも守られた聖域を呪術師は愛しげに指で可愛がる。吸い付く其処の、一番イイトコロを指先に捉えると、硬さの違うそこをクリクリと的確に刺激しだした。  「ああっ。あっ、そこばっか、だめえ」  イヤイヤするように首を振る男。  十分すぎるほど解けた事を確認すると、呪術師はちゅぽんと指を引き抜く。  「んっ!」  「本当は自宅でたっぷりゆっくり味わいたい所なんですが、今日は俺も辛抱できねえ」  呪術師は赤黒く凶悪なまでに凹凸鋭い自身を蕾にあてがう。  「努力しますが、手加減できなかったら勘弁しとくれよ」  言うなり、ぐちゅん!と根本まで一気に貫いた。  「かはぁっ!」  ずっと熱く燻っていた胎の奥まで届く一撃に、男の喉が開く。  結腸をも超えた凶器が、ごりゅごりゅと肉壁を擦り上げる。  「はあ、やべえな、腰ごと蕩けちまう」  呪術師が呟いた。ねっとり絡みつく熱に意識を持っていかれそうになる。  無意識にくねる男の腰をしっかり支えて、一度引き抜いては打ち込んだ。  「ぁあんっ、はぁンっ!ああっ!!」  深く、浅く、いつもと違いいくらか性急な責め苦に、男の嬌声が答える。  力いっぱい引き絞っては打ち込み、男が串刺しにされる度に濃厚な魔力の香りが漂い続ける。  男はずっとずっと欲しかった剛直を逃さぬように、胎内の呪術師を咥え込む事に夢中になる。 全身を目一杯波打たせて  「せんせぇ、せんせぇぇっ!あぁっ」  と、うわ言のようにしがみ付いた。  男のガッシリした脚がいつの間にか呪術師の細い腰に組まれて、今や呪術師が身動きすることさえ困難だ。  「旦那、ちょっ、脚を緩めてくれ。このままじゃ中に出ちまう」  「ああぁっ」  「旦那!」  「いいっ!中に、中にくれよ、先生……!」  「んなこと言っても」  呪術師の首にかけていた腕をぐっと引き寄せて、男が耳元に囁く。  「せんせぇが、欲しい……」  男の『お強請り』に、呪術師の顔が悪人のそれになる。ワントーン低くなる声。  「……しらねえぞ」  一層巨大化した剛直が、男の胎をさらに深く貫いた。  「はぁンっ!」  今までそれでも抑えていた欲求が呪術師の中で暴れだす。  水音は更にそのスピードを上げ、容赦なく男を責め始めた。  ごっちゅごっちゅと、重い音を立てて間断無く腰が打ち付けられる、  「今日は!早めに!済ませてやろうと!思ってたのによ!旦那が!悪いぜ!!」  「ああっ!あんっ!だめぇっ!そんな急にぃっ!!ああああっ!!!」  蜜壺をぐちゃぐちゃにかき混ぜて、反らされた男の太い首筋に尖った犬歯を突き立てる。  自分の下で甘く足掻く巨体を、自分だけの雌にする為に。  誰にも触れさせない。何処にも行かせやしない。  本能のままに呪術師は男を無我夢中でかき抱き、溺れるように貪る。  男の胎の中で呪術師が達するのと、男が深くイクのは同時だった。  胎底でどくどくと吐き出される熱を感じて、男が呟く。  「…あぁぁ…せ、せんせぇ」  「旦那……」  痙攣し続ける肉を感じたまま見つめ合う二人。  男は胸に湧き出る温かい感情が幸せで目眩がした。  甘やかな余韻に涙が一筋溢れる。  頬に掛かる髪を呪術師が取り払うと、どちらともなく口づけがかわされる。軽く、何度も重ねられるそれに、ようやくこの人の隣に帰ってきたという実感が湧いた。  思えば忙しない1日だった。  安心したせいか、ずっしりした鉛のような疲労感が一気に男にのしかかってくる。  重たい睡魔に引きずられるように、そろそろと呪術師の下から這い出ようと男が身じろぎする。しかし、呪術師の腕はしっかり男を抱えたまま動かず、同時に胎の中で不穏な気配を感じた。  熱を吐き出したばかりの呪術師が、再び硬さを取り戻したのだ。  「せ、先生?」  先ほどとは違う意味で呼びかける男。  だが呪術師は満面の笑みだ  「旦那が煽るのが悪いんですぜ」  半泣きの男にもはや逃げ場所はなかった。  その後呪術師が男を開放したのは翌日の昼を過ぎた頃だ。  結果腰が立たなくなった男は人通りの多い場所を、結界代わりの呪術師のローブと毛布グルグルのまま抱えられて村まで帰ることになった。  さすがにヨロヨロの男はマジ泣きで  「もう、しばらくヤダ」  と宣言したが、  「旦那の上目遣いが可愛すぎるのが悪い」  という一方的な理由で更に追加でみっちり食われたと言う。  だが、以来男が目を覚ましても呪術師はちゃんと隣にいるようになり、割と男は機嫌が良いのだとか。

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