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第1話
「海松(みる)、今から塔に戻る」
宿舎の厨房に顔を出すと、食事係の海松が調理台の上に置かれた大きな籐の籠を指さした。
「これ、できてる。たまには温かいものを食べるように、師匠にも伝えてくれ」
「ああ」
布巾のかぶせられた籠の中には、大体二日分の食事。
これから行く、日の塔の分。
「そういえば、後継者はどうなったんだ?千草(ちくさ)は知ってる?」
興味あります、と、でかでかと顔に書かれた質問。
オレが日の塔に通うようになって、季節は10回以上廻った。
師匠に連れられて日の塔へ行くようになった頃、子供だったオレはそろそろきちんと職に就かなくてはいけない。
そして、あの頃すでに日の塔の住人だった師匠は、そろそろ後継者を決めなくてはいけない。
オレの背はとうに師匠を抜いてしまったし、身体も師匠より一回り大きくなってしまった。
今は師匠の従者とも、日の塔の弟子ともつかない仕事をしているけれど、そろそろどちらかに決めなくてはいけない。
「さあ、師匠は何もおっしゃらないから」
首を傾げたオレに、海松は笑って答えた。
「真朱(まそお)さまなら、忘れてるかもしれないな」
「ありそうな話だ」
くすくすと笑いながら、手を振ってオレは厨房を出る。
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