1 / 7

第1話

「海松(みる)、今から塔に戻る」 宿舎の厨房に顔を出すと、食事係の海松が調理台の上に置かれた大きな籐の籠を指さした。 「これ、できてる。たまには温かいものを食べるように、師匠にも伝えてくれ」 「ああ」 布巾のかぶせられた籠の中には、大体二日分の食事。 これから行く、日の塔の分。 「そういえば、後継者はどうなったんだ?千草(ちくさ)は知ってる?」 興味あります、と、でかでかと顔に書かれた質問。 オレが日の塔に通うようになって、季節は10回以上廻った。 師匠に連れられて日の塔へ行くようになった頃、子供だったオレはそろそろきちんと職に就かなくてはいけない。 そして、あの頃すでに日の塔の住人だった師匠は、そろそろ後継者を決めなくてはいけない。 オレの背はとうに師匠を抜いてしまったし、身体も師匠より一回り大きくなってしまった。 今は師匠の従者とも、日の塔の弟子ともつかない仕事をしているけれど、そろそろどちらかに決めなくてはいけない。 「さあ、師匠は何もおっしゃらないから」 首を傾げたオレに、海松は笑って答えた。 「真朱(まそお)さまなら、忘れてるかもしれないな」 「ありそうな話だ」 くすくすと笑いながら、手を振ってオレは厨房を出る。

ともだちにシェアしよう!