6 / 9

第6話

「ハァ···」 大きくタメ息を吐き、次いで酒瓶を煽った。 喉に焼けるような刺激が走り、それが胃まで到達すると身体がカッと熱くなる。 ···なんだよ、バーカ 人間の女なんか喰うくらいなら、俺の血を飲めば良いだろうが。 そりゃ味は違うかも知れないけど、俺だってそれなりに旨いんじゃなかったのか。 街で見かけた『食事』風景が目に焼き付いて離れない。 あの男が他の誰かを腕に抱いているのを見たくなくて。 艶然と吸血している姿に胸が痛んで···逃げ出してしまった。 街道の外れで待っていた夜と闇を置いたまま森の中へと全速力で走り、ここまで戻ってきた。 途中2匹を呼び寄せたから、そろそろ合流できるはずだ。 ほんと、ダッセェ··· 見当違いな考えで勝手に傷ついている。 吸血鬼にとって血を吸うことはただの食事で、そこに特別な意味なんかないことくらい分かってるのに。 けど、吸血されることで残る首筋の傷。 あれは自分があの男のものになれたような気がして···嬉しかった。 再生能力の高さゆえ、あの程度の傷痕はすぐに消えてしまうけれども。 それでも次に会える日までの繋がりのように感じていた。 それなのにここ数日あの男は姿を現さず、寂しさを感じていたところであの風景だ。 俺に残して欲しかったあの傷痕を 人間の女に残すのか··· 「くっそ、バーカ!!エロ吸血鬼ーーー!!」 「ほう···もしかして、それは僕のことかな?」 「うぇぇえ!!」 背後から低い声が聞こえ、驚きで声がひっくり返る。 振り返ればそこには黒づくめの男の姿。 思考の波に飲まれ、いつもなら気付くはずの気配に反応できなかった。 明らかに不機嫌な表情のまま一歩踏み出される。 「う"···」 「······」 思わず一歩下がれば、目の前の男の空気がさらに険しくなった···気がする。 ユラリ···と殺気にも似た空気を身に纏う男に、背中に冷たい汗が流れた。 なんだよ! 何であんたが怒ってんだ! 怒ってるのは俺の方だかんな!! 「「······」」 互いに無言のまま睨みあう。 やがて先に口を開いたのは男のほうだった。 「···何で逃げたの」 「え···?」 「僕からどうして逃げたのかを聞いている。」 「そ、それは···」 「······」 絶体絶命、まさに蛇に睨まれた蛙状態。 静かに見つめてくる瞳は『説明しろ』と無言の圧力をかけてくる。 「···だった、、よ···」 「は?」 小さくボソボソ···と呟けば、寄せられる眉。 相変わらず不機嫌な顔のまま聞き返されるのに、悲しさよりも怒りのほうが勝った。 ダンッ!! 「!?」 「だから!嫌だったんだよ!!喰うなら俺にしろよ!」 地を蹴って飛び掛かると同時に足を払い、そのままの勢いで固い地面に男の身体を倒す。 両手首を押さえつけ馬乗りになると漆黒の瞳が大きく見開かれたー。

ともだちにシェアしよう!