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第7話

「だから!嫌だったんだよ!!喰うなら俺にしろよ!」 足を凪ぎ払われ視界がグルッと反転する。 身体に走る衝撃。 そして彼の口から発せられた言葉に、少なからず驚かされた。 「そりゃ···俺みたいな男なんかより、人間の女のほうが旨いのかもしれないけど。けど俺の血だって、あんたいつも旨そうに飲むじゃんか。腹が減ったんなら俺のところに来いよ!」 早口でそう告げるとクシャッと顔を歪める。 どこか苦しそうなその表情に、先程まで感じていた苛立ちが小さくなっていく。 「だいたい何だよ、何日も姿を見せないで。俺、待ってたのに。あんたが現れるのを毎晩バカみたいに。なのにあんな···くそっ!」 「···っ、ん···」 唇に熱い感触。 乱暴に重なるそれが唇を噛む。 その仕草に僅かに口を開けば直ぐ様差し込まれる舌。 濡れた舌が蠢き、舌の根に絡む。 チュクッ··· 水音が響き、彼の口に吸い込まれていく。 つまりこの狼は、僕の『食事』している光景に嫉妬したということか··· 「っ!」 好き勝手に動く舌を軽く噛んでみる。 驚いたのか一瞬動きを止めたかと思えば、また執拗に絡まるそれ。 ···ほんと、バカな狼だな。 ただの食事に妬いて、寂しがって。 でもこんな風に真っ直ぐに気持ちをぶつけられるのは···正直、悪くない。 一頻り口腔内を味わうと、チュッ···と音を響かせ離れていく唇。 どちらのものともつかない唾液が糸を引き、プツリと切れた。 「···何で抵抗しないんだよ。ヤらせてくれんの?」 「君が、僕を?」 「だよ。逃げなきゃ、このままヤッちまうぞ。」 至近距離から顔を覗き込み小さく呟く。 濡れた唇と、情欲に染まったアーモンド型の瞳、困ったように下がった眉··· その表情が可笑しくて、フッと笑いが込み上げた。 「ってぇ!!」 「調子に乗るな。」 馬乗りになっていた身体を下から蹴り上げる。 手首を掴んでいた手が弛み、その隙を突いて力任せに起き上がった。 「ってぇな!何だよ、急に!」 「君が生意気だからだろう?」 クスクスと笑って見せれば、顔を赤く染めながらプイッと顔を逸らす。 本当に···バカなガキのくせに僕を揺さぶるのが上手い。 さっきまで感じていた苛立ちはすっかりと消え、今なら少しだけ素直になってやっても良いような気がしてくる。 「···んだよ」 僕の視線から逃れるようにそっぽを向いたまま呟く彼にゆっくりと手を伸ばした。 そうして顎を掴み軽く力を込め上向かせる。 「教えといてやる。僕は君のことを『食事』として扱ったことなど一度もない。」 「え···?」 「ここに···僕の痕を残すのも」 「っ!?」 晒された首筋に軽く口付ける。 チュッと吸い上げればピクッと身体を震わせる。 それが可愛く思えて、そう思う自分が可笑しい。 「『食事』した後には何も痕跡は残さない。あれは『所有印』らしいから。」 「···それって、つまり···どういう事だ?食事じゃないなら···あ!」 「···分かったか?」 僕を見つめる顔が閃いたようにパッと明るくなる。 それにニッと笑って見せれば、嬉しそうに口を開いた。 「デザートか!?」 「·············勘弁してくれ···」 はぁぁ···· 大きな溜め息が溢れる。 バカだとは思っていたが、まさかここまでバカだとは··· 僕が全部言わないといけないのか? 冗談じゃない。 ここまで素直になるのにどれだけプライドを捨てたと思っている。 「何だよ!教えろよ!」 「自分で考えろ···この、阿呆が!!」 思わず大声で一喝すれば、アーモンド型の瞳が大きく見開かれた。 「分かった。なら自分で考える。」 「····どうしてそんな嬉しそうにしてる。」 ニコニコと笑顔で言うのに眉を寄せれば「だって」と彼は抱き着いてきた。 「あんたがそうやって怒鳴るの初めてだ。いつもクールな吸血鬼がそんな表情。嬉しいに決まってる。」 「··············」 ギュウギュウと抱き着いてくるのにもう一度大きく溜め息を吐いた。 調子狂う。 バカで、阿呆で、ガキで···僕を揺さぶる天才。 仕方ないな。 そんな狼男に惹かれた自分の負けなのだろう。 だから··· 「············」 「え···」 抱き着いてくる身体に腕を回し、ソッと耳元に口を寄せる。 そうして小さく呟いた言葉に、彼は弾かれたように顔を上げたー。

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