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 日の出にはまだ早い朝。  昨夜の名残の痛みをこらえてそっと絹の上掛けを引き、逞しい肩を覆う。連日激務のこの人が、こうしてぐっすりと眠れるのは珍しい。朝方の冷え込みに眠りを阻まれぬよう、露出を封じよう。  なにしろ大変なお仕事だ。貴方の一瞬の判断に全てが委ねられる。終わらないその重圧は想像に耐え難い。その心を慰める為ならば、(とぎ)役の自分が傷を負うのもいたしかたのないことだ。  眠れない日は何気ない会話をしながら身体を温め、今日のように精魂果たして眠れる日も、自らは眠らず添う。寝返りの度に引き寄せられ、真近で見つめる自分だけが、この人の睫毛は意外にも長く濃いことを知っている。  ……目の前に眠っている美しい男が地獄の閻魔大王だなんて、未だに信じられない。

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